あぁ、格好良い人生を送りたかったなぁ。実際の話心の底からそう思うよ。
痩せぎすのごま塩頭なんだけれど、さらりとした髪の毛で、それを掻き上げながら悠然と、そう、あくまでも悠然として、語ることはあくせくしていないのだけれどもとてもクリエイティブで、他の人には発想できそうもないようなことを創り出していたりするんだ。物腰はあくまでも柔らかくて、それでいて眼の力は鋭いのではなくて、強くて、誰もが気がついていないようなことに関心が向いており、それを後で聞いてみると確かに大事で、確かに人々が共感するものだったりする。これ見よがしではないのだけれど、みながあの人の意見はやっぱり聞いておきたいなと思う。そんな人間・・・になるはずだったんだよなぁ、10歳ぐらいの時には、時々そう思った・・。ま、あくまでも時々そう思っただけだ。
で、通常は通信簿に「私語が多い、落ち着きがない、忘れ物が多い」と書かれることが日常だったんだ。だから、そんなことを考えることがそもそも無理で、そんな奴になるわけもなかった。だけれども、ひょっとしたらこの自分は世を忍ぶ仮の姿で、そうやってみたら自分はそうなれるのかも知れないと、たまにそんなことを思ってやってみた。すると10分もしないうちに仲間がどこかから飛んできて、私に身体ごとぶつかってきて、「何、すかしてんだよ!」と云ったものだ。そうなんだ、私はそうなろうとしていたのに、それをぶち壊したのはあいつだったんだ。
そうだ、落とし前をつけて貰おうと思ったあいつは私が外国にしばらく暮らしている間に急死してしまい、中年を過ぎてからは一度としてきちんとした話しをした記憶がないままだ。あいつに文句をいっておきたかった。俺をこんな爺にしたのはお前だと。あれからもう10年が経った。あいつはいったい何かを悩んでいたのだろうか。