ほぼ足りてまだ欲 その先

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映画「sicko」

 日比谷にマイケル・ムーアの新作を観にいった。09:45からの全席自由席の回である。金曜日の初回と云うことでほとんど定年後の夫婦という様相を呈し、シャンテ-1のほぼ45%程の入り。
 一体全体このタイトルってなんだよ、と日本人だったら思う。大体窓口で云いにくいもの。「えーっと、“シッコ”二枚」ってね。これ辞書にも出ている英語なんだと知ってビックリ。それでもちょっと古い辞書には載っていない。多分“sick"という言葉から派生したんだろうなぁ。それにしてもなんで原題は「SiCKO」と大文字混在で書くのだろうか。大体英語の単語で母音で終わるものってのも珍しくない?言語学者にでも聞こうか。
 ヒラリー・クリントンが提案してがっつり否定されてしまった国民総保険についての話である。なんで米国民はこんな状況に安穏としているのかという強烈なパンチで、切り口が如何にもマイケル・ムーアである。ごく普通の中流階級と覚しき夫婦が二人とも医療費がかさんで家を売りに出し、遠くに住む娘のところに転がり込むという話から始まる。とても50代の夫婦とは思えない老けて見えるこの夫婦は20代の息子からなじられ、辛い思いをする。
 この問題をNHKがドキュメントで取り上げるともっときちんと全てを表現するだろうけれど、どちらかというとマイケル・ムーア的な刺激的な取り上げ方であることは否めない。福祉的観点から取り上げると最低の部類に入ると云っても良い米国システムであることは間違いがない。しかし、米国市民がこうした観点を見つめて民主主義的行動に出ていないと云うことが指弾されるべきポイントのひとつであることもこれまた間違いがないのである。
 多分これをご覧になった方々の中にはお気づきになった方も多いと思うけれど、私たちの国は誠に幸いなことに国民総健康保険制度が確立している。これをみるとちょっと誇り高い。しかぁ〜し!この国民健康保険制度は危機に瀕している。保険料の支払いをしない人たちが増えてきて、存続が危ぶまれている。その原因はどこにあるのか。簡単に言ってしまうと支払額が一律な保険制度にあるといってしまうことが可能。
 豪州という国は元はといえば英国連邦の一国だったから(あ、今でも元首はエリザベス女王か・・)国家の意識としてはその系統を辿っているといえるけれど、むしろその点では英国を凌駕していると云っても良いだろう。医療費は元はといえば「medical levy」という税で運営されてきた。今はどの程度の税になっているのか知らないが、かつては収入の1.3%がこのために徴収されてきた。つまりこの国の医療費は「応能負担」で成り立ってきたのである。金持ちは金持ちなりの、そうでない人はそうでない人なりの負担で機能してきた。尤も現在の豪州国民はこの流れを米国的キャピタリズムを推し進める「阿呆の」ジョン・ハワードに託してしまっている。
 この映画の中の米国キャピタリスト的表現を借りるならばそれはもう「社会主義」であり、下手をすると映画の中で表現されてきたように「コミュニスト」とまでも表現されそうな制度だった。しかし、金さえかき集めた奴だけが安心して暮らせるのであればそれでよい、「利益追求のための集団のためだけに存在する社会」と認識するしかない、それが「American Dream」の原点だとするのが米国民の思想だとするのであれば、むしろ人道的見地からアムネスティは活動を起こすべきだろう。
 この映画では、カナダ、英国、フランス等の医療費、学費、育児ケアといった福祉的国家扶助を取り上げてはいるが、そのバックグラウンドにある税負担については多くを触れていない。しかし、在仏米国人たちの「こんなにして貰って申し訳ない」という感想は米国人から見たら素直なものだろう。市民が本当に得られるものを本当に素直に評価して見る必要がある。
 そして、小田実自身が遺言になるといっていた「中流の復興」(NHK生活人新書)の中で書いているようにデモクラシーに於ける市民の唯一の手段は選挙だと考える「日本的民主主義」は間違っているのだろう。われわれは欧州市民が今でも活発に表現しているように、市民の意向をデモでも、あるいは署名活動でも、陳情でも、ビラ配りでも表現して行かなくてはならないし、そうした活動をデモクラシーのひとつの要素として考えるべきなのだろう。
 米国唯一の医療費無料の場所と云うことでキューバグァンタナモ基地のテロリスト収容施設に向かうけれど、これはまぁマイケル・ムーアのおふざけ。ひょっとして米国内の刑務所内の医療費は有料とでも云うのだろうか。キューバの病院が無料なのは当然だろう。なんたってあそこは数少ない本物の共産主義社会だもの。北朝鮮は既に独裁封建国家と成り下がってしまったけれど。