ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

鬼子母神 みちくさ市

 昨日までは全然そんな気はなかったのだけれど、朝起きてみたら「みちくさ市やります!」という文字を見て、しかも天気が良さそうなので行く気になった。古本を前にするとどうしても何か手に入れないと気が済まなくなるものだからあんまり気が進まなかったのだけれど、天気がよいものだから。
 バスに乗っていこうかと思ったのだけれど、それだと一時間以上掛かることと乗り飽きたルートだということもあるものだから、まず2kmほど歩いて都電に乗ることにした。都電は都営の交通機関だから都バスと同じように、年齢を超えた方々は例のシニアパスが使える、私はまだまだだけれど。だから都電乗降客の高齢者率はいつでも高い。その上、今日は祝日の暖かい日だものだから、私のようにふらふらと家を出てくる人がたくさんいる。都電の中は大混雑だ。高齢者が座りたいと願っていたって、座っている人たちだって高齢者だから譲ってもらえない。ごく近い将来、都電だけじゃなくて他の交通機関もこうなるんだろうなぁなんてことまで考える。その上考えてみたらお彼岸だからお墓参りの人たちもたくさんいる。なんたってこの沿線には雑司ヶ谷の墓地もあるからね。
 ということで結局50分ほど立ち尽くす。鬼子母神の駅で降りてみると、お〜!あっちこっちに人だかりができているじゃないの。
 まず目白通りの方向に歩き出す。すぐそこに出している人の本を覗くと鶴見俊輔の「戦後日本の大衆文化史」(岩波書店)をわずか100円で出している人がいる。「え!これ100円で良いの?」と聞くと、その女性が「えぇ、煮るなり焼くなりしてください」というのである。そんなことしちゃだめじゃん。ま、これはどこの古本屋にもあるし、わが家にもすでに一冊あるのだけれど、この値段でこんなところにあってはもったいないと(これがいけないといわれるところなんだけれど)救い出す。
 その隣の箱に内田樹の「「おじさん」的思考」(晶文社 2002)を手にする。この人の本は殆ど読んだことがない。これには続編があるらしい。
 その反対側で本を見ているとそこの女性が「歯ブラシは如何ですか?」という。歯ブラシ?とみるとそれがインドものかなんかの単なる棒である。つまり昔ながらの先っぽの繊維を崩して磨くというものだ。「やって見せないとだめなんじゃないの?」というと「女性の私がですかぁ〜?」と。その隣の箱を見ているとそこのおじさんが若い男性と「なんであんな小坂一也なんてぼぉ〜としているのがあんなにもてたんだろうねぇ、おかしいじゃないか!」と話しているんである。思わずくだんの歯ブラシの女性と二人で「なんちゅうはなしをしているんですかねぇ」と話しかけると、私の顔を見て(あぁ、この歳の人なら分かるだろう)と「あんな♪みどぉりぃ〜の、かぁぜぇのぉ〜、なんて歌が良かったんですかねぇ、もてたんすか?」と聞くのである。「だって、あの十朱幸代が惚れたくらいだもの」と話に思わず乗る。こんなところがこういう催し物の面白いところだ。これが今日の鬼子母神の境内の「手作り市」のようにぎっしり人が歩いていたら、こうはならない。
 鬼子母神に向かって都電をわたるとこっちにもあちこちに出店は続いている。三叉路のところに古書往来座が店を出していた。黒ずくめの若くも老いてもいない女性が店員さんになんだかんだと絡んでいたけれど、それが空いたから、箱から取り出した正岡容の「小説 圓朝」(河出文庫 2005)をもらう。底本は三杏書房(1943)で、解説は正岡の弟子として知られている桂米朝である。
 一旦、千登世橋下まで出て(出なくても良いのに)明治通りを池袋の東口に向けて北上する。肉のハナマサの手前に年末以外は通年営業しているという古書往来座がある。どうしようかなぁと思ったのだけれど、一度も来たことがないのだからと入るとこりゃ守備範囲が広い。つい、Leonard Mosley(高田市太郎訳)の「天皇ヒロヒト(上下)」(角川文庫 1983)を手にする。原著は1966年の刊行。上巻の巻末には草柳大蔵、下巻の巻末には藤島泰輔が書いている。
 もうひとつは奥野健男監修の「太平洋戦争 兵士と市民の記録」(集英社文庫 1995)でこれは奥付を見ると1964年刊行の「昭和戦争文学全集」が底本のようだ。目次を見ると淵田美津雄の「真珠湾上空十六時間」、太宰の「十二月八日」、坂口安吾の「真珠」、清沢冽の「暗黒日記」他の抜粋が羅列されているようで興味深い。ところが表紙が赤い文字で「太平洋戦争」とあり、戦艦や零戦と覚しき機体が描かれていて、なんだかまるで戦争を懐かしむ類の本みたいに見える。まぁ、よく見ると荒れ果てた故郷の絵も一緒に描かれているのだけれど。
 やれ帰ろうかと外の箱を見ると、三冊の1980年頃の「話の特集」が見つかる。この頃、私はもう「話の特集」から離れていた。「他にはないの?」と聞くとあったら外に出しているからそれっきりだというのだ。惜しいじゃないか。
 1986年5月号に宇井純辻元清美吉川勇一の座談会「気分は反中曽根!」を矢崎泰久が司会している。掲載してある辻元の写真が実に若いのだ。
 池袋駅の東口に出て、バスで帰宅する。今日は多分全部で3.5kmほどを歩いたものだから(それに都電の中ではずっと立っていたし)バスの中でくずおれるようにして眠る。
 みちくさ市の次回は5月16日(日):雨天順延22日(土)だと「チーム・わめぞ」がtwitterで書いている。

久生十蘭「従軍日記」

久生十蘭「従軍日記」

太平洋戦争―兵士と市民の記録 (集英社文庫)

太平洋戦争―兵士と市民の記録 (集英社文庫)

小説 圓朝 (河出文庫)

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「おじさん」的思考

「おじさん」的思考