ほぼ足りてまだ欲 その先

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北杜夫

 84歳で北杜夫が亡くなったそうだ。そういえばここのところすっかり彼の名前を聞くこともなくなって、思い出すこともなくなっていた。
 私は「どくとるマンボウ航海記」にすっかりやられたクチなのだけれど、あの本が出たのは1960年だというから、もう半世紀以上昔のことだ。私は当時中学生で、ムキになって学校の図書室の本を読み倒そうと思っていた頃だったから、当然彼のこの本にはすっかりやられた。「良いなぁ、外国を渡り歩いているなんて、凄いなぁ」と。
 小田実が「なんでもみてやろう」を河出書房新社から出したのは翌年の1961年である。ミッキー安川の「ふうらい坊留学記」がカッパブックスから出たのも1960年だと思う。私にとってアメリカを憧れの地として認識させるに充分な三大影響書だったといって良い。
 北杜夫斎藤茂吉の息子で、お兄さんは精神科医の齋藤茂太だ。お兄さんはバランスの取れた知識人という扱いでテレビや雑誌にも登場していたけれど、北杜夫の方はあれから実家の話をたっぷりと「楡家の人びと」で綴り、松本高校での試験で「拡大図」やら「超拡大図」で煙に巻いたというのは彼ではなかったか。いや、他の人だったか。とにかく、そんなことをやりかねない面白い人だったことは彼が書いたものを見れば一目瞭然だろう。
 躁鬱病になってから殆ど彼の文章、発言に触れることがなくなっていたんだなぁと今更ながらに振り返る。はっきりいって私の青春時代を構築した様々な影響源が次々にこの世を去っているのは寂しいものがある。