ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

手作り

 私が幼稚園の頃、マグネシウムをぼっ!と焚かれて撮られた幼稚園の演芸会の写真を見ると、胸に鹿の模様が編み込まれた茶系のセーターを着て、半ズボンを穿いている。両方ともおふくろが作ったものだ。
 セーターはなんだか今のキーボードのような横長で数え切れないほどのカギが並んだ編み機で編んだものだから、手編みと違って模様もちゃんとできている。まるで買ってきたセーターのようだ。
 ズボンはというと、おふくろが近所のおばさんと話しているのを聴いていたから、昔おふくろが穿いていたスカートをばらして、それを仕立て直したものだと覚えている。当時、どこの家にもあった足踏み式のミシンで縫った。「SINGER」と書いてあったミシンだった。足下の大きなペダルに両方の足を載っけてぎっこんばったんさせると、革のベルトで繋がってその力がグルグルと機械を回して、あぁら不思議!ハリが上下した。
 そうしてなんでも彼女が作ったものを着ていた。それしか選択肢がなかったのだ。今から考えると本当に貴重だった。それもこれもうちのおふくろが専業主婦だったからだ。商店のおかみさんにはそんな時間がなかった。だから、商店の子どもは買ってくるものを着ていた。しかし、子ども心にはそれが羨ましかった。
 唯一の例外は靴だけだった。さすがのおふくろにも靴だけは作れなかった。