ほぼ足りてまだ欲 その先

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会見

 政治家は良く会見に引っ張り出される。自ら会見に臨む人もいるけれど、どうも日本の政治家のそれを見ていると「引っ張り出され」ている。どういうことかというと、自分から国民に説明をして、説得しようというよりも、「会見をした」という事実を作るためにしている。アリバイ会見とでもいうべきなのかも知れない。
 会見をするということは説明をすることだから、そこに居合わせる人たちが持っている疑問、あるいは明らかにしたいことに対してすべからく答えなくちゃならない。
 そういう点で立派だと思うのはロシアのプーチンや昨日の韓国の大統領だ。そこへ来ているジャーナリストを制限しているのかも知れないけれど(そうだとしたらまたこれも問題だけれど)、プーチンの場合はロングランの会見をし、フリーハンドでそれに答えている。私は詳細を知らないから、ひょっとしたらしてはいけない質問があるのかも知れないけれど、報じられる限りにおいてはそこにいる記者たちが上げる手を指さして質問をさせて、それに対して答えている。
 昨日の韓国の大統領も指さして日本の記者がハングルで質問に立った。そしてそれに答えて「日本も謙虚になった方が良いと思う」といって日本報道が色めき立っている。しかし、映像を見る限り、事前のやりとりがあったわけではないように見える。そして彼は原稿を持っていなかった。
 翻って、日頃の日本の政治家の会見を思い浮かべてみると、まず、いわゆる各省庁に附属する、いわゆる「記者クラブ」所属以外のジャーナリストをすでに排除している。もう既にこの時点で、開かれていない。だからフリーハンドの質問というのは全くない。記者クラブ所属記者のフリーハンドの質問に対しても、まともに答えないし(東京新聞の望月記者に対する官房長官の応答を見たらわかる)、その種の記者が手を上げても、そもそもささない。まず、当番の社の記者が事前に打ち合わせた質問に対して答えて、その後にメンバー各社が質問をするのが日常だけれど、批判する質問をそもそもしないことになっている。そんなことをすると情報がもらえなくなってしまうからだ。
 かつて北海道県警が隠し金を作って日常的に裏で遣っていることを北海道新聞がすっぱ抜いたことがある。道警は道新を徹底的に排除にかかった。挙げ句に道新を追い詰めた。近いところでは森友学園問題を報じようとしたNHKの記者は社内で左遷されて退社した。
 こういうことが起きるから、クラブ記者は社を背負って情報源を保持するために、批判的質問をしない。
 わが首相が年頭会見をやった。(詳細は官邸ホームページに掲載されている。→こちら。なぜか唐突に三重県記者クラブ、幹事社の東海テレビの藤井記者が質問に立つ。これで官邸記者クラブに限定しているわけではないというポーズか。質問はたったの4人。フリーハンドの質問ではなくて、官邸が指名。)彼は質問に対して原稿を読んで答えた。準備されていたからこそ原稿ができていた。国会で「通告されていないから、答えない」のスタンスのまんまだ。だから、悪いと思っていない。姑息だとも思っていない。フリーハンドの質問に対して答えられない。そんなことをしたら窮地に立たされるからだ。だから、これは会見とは云わない。演説だ。
 アメリカのトランプがCNNを目の敵にしている。会見で立ったCNNの記者を無視しようとし、係の女性がこの記者を座らせようとし、それに対してCNNの記者が手を払った場面を改編して記者が女性を叩いたという偽映像まで作った。彼もまた、フリーハンドの質問に対して答えようとしていない。
 かつて佐藤栄作が首相を降りるときの会見で、テレビは嘘をつかないけれど新聞はちゃんと報じないから、この場から出て行けと暴言を吐いた。要するにそれまでの官邸記者クラブを始め各紙の政治部が報じることに対して佐藤栄作は日頃からストレスをためていたということで、それは新聞が権力におもねっていなかったということの証明でもある。その結果当時の新聞各紙の記者はその会見の場をボイコットした。がらんとした記者席の後ろにテレビのカメラの放列が並び、その状態で会見をした。
 いま、わが国の各マスコミのクラブ担当記者はその気概を持っているか。それに対抗する気概を政治家が持っているか、といったらお先真っ暗だ。
 彼らがやっていることは「記者会見」とはとてもいえない。