ほぼ足りてまだ欲 その先

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集団疎開、そして抑留所

 午後からのレクチャーを前にまず福島県立歴史資料館に行ってみる。事前に検索して駅前からコミュニティバスの様な「ももりん」なるものに乗る。バスの前に座っているお爺さんたちの話を聞くと、どうやら彼等は競馬場に場外馬券を買いに行くようだ。夏になると開催される福島での中央競馬は来週からだそうだ。
 文化センター入り口で降りよとあったので降りたけれど、周りは住宅街のようで、どこにも「歴史資料館」の表記はない。ひょっとして文化センターなるものの中にあるのかもしれないと、そっち方向に歩くと、その通り。正式には「財団法人福島県福島県文化振興事業団 県歴史資料館」というらしい。
 古い建物の一階には教科書展示がされていて誰もいない。二階に上がると閲覧室があって、戦争中の資料がないかと思ったけれど、めぼしいものがあるわけでもない。
 それでも取り敢えずと思って「福島市史近代資料-II」をぺらぺらとめくってみるとp.571に「昭和18年度集団疎開受け入れ人員表」なるものを発見。荒川区から飯坂町、湯野町、土湯村に集団疎開している記録がある。尾久校(国民学校か?)から564名が17の温泉旅館に分宿している。飯坂全体で164室、1,392畳に2,265名の児童が収容されていたという記録である。詳細に見ると8室74畳に133人が収容されていたという記録があり、はなはだしきは4畳に26名なんぞと書いた記録もあり、いくら何でもそれは無理だろうと思うけれど、ひょっとしたら客間以外に広いところを使ったのかもしれないし、これだけではなんともいえない。当時の子供たちはすでに80歳前後だろうか。そろそろ少なくなり始めていることなんだろう。
 そんなものを眺めているうちに、会津若松の歴史春秋出版社が2001年に刊行した「歴春ふくしま文庫」なるものがずらっと並んでいるものの中に「近代福島と戦争」というものを発見。そのp.217に花園町の福島修道院141名の英・豪・比・南ア・ギリシア人が収容されていたという記載を見付ける。これが今日のひとつのトピックだ。それ以上の記載もないし、ここにはそんな資料もありそうもない。
 またバスに乗って戻り、県立図書館を目指す。できてから26年たつという図書館で美術館が隣接されているが、それはそれはゆったりとした施設である。週末は5時半で閉館してしまうのはもったいない。
 さきほどの本に引用されていた紺野滋著「福島にあった秘められた抑留所」を見付け、少ない時間で見られるところを見る。著者の紺野滋は執筆当時、福島民報の記者で1948年生まれ。現在は論説委員だそうだ。
 そもそもこの修道院カトリックのコングレガシオン・ド・ノートルダム修道会が昭和10年にカナダから資材を取り寄せて建てたものだそうだ。当時は周りはなにもなくて遠くからも良く見え、「スパイの館」と噂されていたという。しかも昭和17年には141名もの外国人が軟禁状態におかれていたので、余計怪しいものを見るように思われていたという話だ。
 ここが抑留所として使われた理由は当時としては大変に珍しく水洗トイレを完備していたことと、暖房(スティームか?)があったことだという。修道院として当時はカナダ人が4名、日本人が5名いたのだそうだけれど、会津修道院に移された。その際に礼拝堂を閉ざしていったそうで、この部分だけは戦後までそのままに保持されたそうだ。戦時中に様々な境遇にあったキリスト教会の中にあって、かえって保全されて良かったのかもしれない。
 この抑留所が解放された時、141名のうち病死した人が3名。終戦後、米軍が投下した救援物資が直撃して亡くなったオランダ人がひとり、合計4名の人がこの地で命を落とし、彼等の墓は信夫山に葬られているのだそうだ。
 この抑留所を警備していたのは福島県特高警察が各5人の2班があたったそうである。そのうち二人は戦後戦犯として小菅に服役したそうだ。
 この書物には多くの資料が引用されているけれど、その中に英国の「The Daily Telegraph」の記事があって、著者の幅広い文献へのアプローチが偲ばれるが、この点についてお伺いすると思いもよらない返事が返ってきた。
 戦後、何人かの人たちがこの地を再び訪れたのだそうだ。そのうちの英国の方が、帰国後こんな記事があるといって送って来てくれたものがあったりするのだそうだ。人と人のつながりを大事にするということにはこういう意味もあるんだなと深く反省をした。
 この教会の設計者はアントニン・レーモンドの建築会社の一員として来日したチェコ人のヤン・ヨセフ・スワガーだといわれているそうで、彼は横浜のカトリック山手教会等、数多くの建築を手がけているそうだ。
 とりあえず母校の図書館に紺野滋著「福島にあった秘められた抑留所」があるらしいので、借りだして全編を読んでみようと考えている。