かの著名なる指揮者はここのところにきて満身創痍。腰も何度も手術をし、腎臓は片一方取ってしまい、もう再起不能だったのではないかと思うのに、なんと不死鳥のごとくNew Yorkのメトロポリタン・オペラでモーツアルトの「Così fan tutte」を振る。
ピットにオーケストラが三々五々入ってきて、チューニングが始まって緊張の雰囲気がピンと張りつめてくる中、なんだか、指揮台のあたりでスタッフが何かをやっている。非常に特殊な指揮台の様でぐるっと動く。まるで何か不具合があるかの様に何かしているのを観客はじっと固唾をのんで見つめている。そのうち、その指揮台がセットされたかと思うと、そのまま序曲の演奏が始まった。
このオペラを見るのは初めてだから、通常そんな風にして始まるのだろうかと何も気にしないでみていた。
休憩が終わったら、今度はその指揮者がこちらを向いて挨拶をした。それが私がようやくJames Levineだと気がついたところだった。観衆の彼への拍手はそんじょそこらの歌手への拍手ではなくて、非常に熱の入った声援だった。