ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

長い旅路〜日本兵になったアメリカ人〜

 2013年8月、つまりちょうど一年前に放送されたNHKの番組が再放送された。前編と後編、各50分の番組で、今日は一気に両方放送された。
 日系米国人にはアメリカで生まれてそのままアメリカで育った人たちもいるけれど、子どものうちに日本に帰って日本の教育を受けた人たちが多くいる。その人たちのうち、日米が戦争状態に入る前にアメリカへ帰ってきた人たちのことを当時は「帰米組」といった。彼らの多くは戦争直前の日本で、天子様の赤子たる日本国民の教育を受けて返ってきたから、米国にいながら日本人として意識していた。強制収容所の中でも、彼らとずっとアメリカで育った人たちとの間には確執が生まれていた。それが「ノー・ノー・ボーイ」の母体であったし、逆にそこから米軍に志願して「アメリカ人としてふさわしい働き」を目指す人たちとの間に当然齟齬を生むことになる。
 この番組で取り上げられた人たちの多くは日本にいるまま開戦となって、日本軍兵士となった、あるいは日本の戦時下に働いた人たちの苦悩を描く。戦後アメリカで国家反逆罪に問われた川北友彌もその典型だけれど、彼は明治大学に留学に来て米国籍を抛棄し、そのまま大江山のニッケル鉱山で強制労働をさせられた米国人捕虜たちのコントロールをやらされていた。彼の場合は戦後米国籍を回復して、米国に帰ってきてから告発を受けて有罪となった。
 この番組でもアイバ・戸栗・ダキノがちらっと出てくるけれど、彼女の場合は開戦直前に病気のおばさんのお見舞いに来てそのまま帰れなくなり、それでも彼女は米国籍を抛棄しなかった。しかし、戦後、ゼロ・アワーでの活動が問われて国家反逆罪で有罪となった。
 日本にいる間にそのまま日本軍人となって従軍し、終いにはシベリアにまで抑留された人たちも、もちろん存在した。
 この番組の中で中野に作られた敝之館(せいしかん)が取り上げられる。昨年この番組を見ているはずなのだけれど、この名前に記憶がない。記憶があれば必ず調べていたはずだから知らないわけがない。
 当時の東京市中野区高根町12番地に作られた組織で、外務省の外交史Q&Aにこう説明がされている。

外務省記録「本省職員養成関係雑件」に関係記録が含まれています。
 敝之館(へいしかん)は、海外(主に米国)生まれの日系二世に対して2年間にわたり日本語や日本事情を学習させて、将来的な対外宣伝と通信事業に従事する人材を養成することを目的に、外務省情報部長の河相達夫が中心となって、同盟通信社と満鉄の協力を得て東京中野に設立された施設です。1939年(昭和14年)夏に募集を開始し、同年12月1日に第1回生16人が入校しました。
 敝之館では日本の歴史地理や文化、政治経済、習字、翻訳などについて学習するとともに、実地見学として樺太・北海道から九州・沖縄・台湾までを視察旅行するなどの活動を行いました。1941年(昭和16年)には、第1回生の成績が「頗る良好」であったとして2度目の募集を開始しましたが、日米関係の悪化により北米からの希望者が集まらず、東南アジア方面でも募集が行われました。その後、戦時中も敝之館は存続し、1945年(昭和20年)4月に第5回生が入校しましたが、同年8月の終戦により閉鎖となりました。敝之館の学生・卒業生の一部には、海外放送・通信の傍受などを目的に設置された「外務省ラヂオ室」の設立、運営に深くかかわるものもいました。
 なお、「敝之館」の名称は、『論語』「公治長篇」の「願車馬衣軽裘、与朋友共、敝之而無憾(願わくは車馬衣軽裘を、朋友と共にし、之を敝りて憾む無からん)」(現代語訳:車馬や着物や毛皮の外套を友人たちと共有し、それが破れ損じたとしても、うらめしく思ったりしないようにしたい)に由来しています。

 逆にアメリカではやはり日系二世を中心に戦時中に軍事情報部(MIS=Military Intelligence Service)が組織されている。その前身は1941年11月にサンフランシスコに開設された陸軍の語学学校にあるといわれていて、その点では米軍は日本との戦争前からすでに準備をしていたといっても良い。
 戦争中の日本人捕虜の尋問等に活躍したが、戦地経験を持たないまま占領下の日本に駐留した兵も少なくない。
 後の日系市民連合(JACL)は戦中の強制収容所の中での対立構造をそのまま引きずっていた時期があり、アイバ・戸栗・ダキノの国家反逆罪裁判の時も、彼らは彼女を擁護する立場を取っていなかったといわれていたけれど、その後そのスタンスを変え、彼女の恩赦適用にバックアップする姿勢を取ったと聴いたことがある。
 日本軍に従軍した日系二世たちの多くは米国市民権を取り戻すのに苦労した人たちは枚挙にいとまがない。彼らにとって本当に属するところはいったいどこだったのかという本質論もさることながら、その中の一人がいった言葉が記憶に残る。
 みんな二重国籍だったら戦いは起きない。どこかにこだわるからその組織の利害に振り回される。

 Kindle版235円には驚かされます。

なんで九軍神が出てくるのかよくわからない。