大学で彼が勉強したのはフランス語でございますね。1950年代に私学でフランス語を勉強したわけですから、さぞかし軟弱ものに違いないと思っておったのですが、彼はテレビでコメンテーターをやっている頃からかなりリベラルなものの考えをしていると知って驚きました。その後も様々な意見を吐露しておいででした。
なんでも数え切れないほどの歌詞を書いておられるようですが、覚えているもので、奥村チヨが甘ったれた声で歌った「恋の奴隷」という曲があります。作詞:なかにし礼/作曲:鈴木邦彦/編曲:川口真という今から見たらヒットするだろうというキャスティングでございます。
今から考えると相当に酷い詞でございます。なにが酷いかというと、今だったらすぐさま「DVだ」と糾弾されるような内容です。「悪い時はどうぞぶってね」なんていっています。「あなた好みの女になりたい」と媚びております。多分これ、共依存でございます。しかし、考えなくてはならないのは時代です。時は1969年。発売は1月です。
私の記憶が間違っていなければ、この曲は「話の特集」の今月の歌だったのではなかったか。「遠くへ行きたい」もそうだった気がする。時あたかもウーマンリブが台頭してきた時期に当たる。わざわざその風潮に対して皮肉的な詞を書いたのがなかにし礼ではなかったのか。これをストレートにパワハラの権化の歌と解するのは、些か間違っているような気がする。歌は世につれ、世は歌につれるのであります。