ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

隠微というか


 1955年ごろ、私の実家があったあたりは坂道を降ったところに商店街があって、ほとんどの買い物はそこで間に合った。酒屋、クリーニング屋、氷屋は御用聞きにやってきた。よく坂道を上がってきたと思うけれど、概ねオート三輪を走らせていた。健気だったのは豆腐屋で坂道を天秤を担いで上がってきた。
 商店街には八百屋、魚や、乾物屋は軒を並べていたから、考えてみたらあの通りそのものがスーパーマーケットのようなものだ。途中には消防署もあった。和菓子屋が何軒もあったのはどういうことだろう。家具屋、ガラスや、肉屋と並び、蕎麦屋も二軒あった。その割にはおもちゃ屋、本屋は一軒だけ。そして、貸本屋も一軒だけだった。その貸本屋には多分小学校の三年くらいの時に初めて入った。一見古本屋のようだったけれど、棚に並ぶ本はすべて「ブーブー紙」でカバーが掛かっていた。今から考えたらずいぶん手間のかかることをやっていたもんだ。それほどしょっちゅう借りに行ったわけじゃないが、なんだか薄暗くて、お店の人もうつむいていたような気もするし、楽しくルンルン気分で入った記憶がないのはどうしてなんだろう。うちでは敬遠するべき雰囲気があったのかも知れない。今ではもう、どんな本を借り出していたのか、全く覚えがない。借りるのに、いくらだったのかも覚えていない。いつまで貸本屋という商売は成り立っていたんだろう。図書館があったらそれは成り立たないわけだけれど、近辺に図書館があった記憶もない。今現在存在するあの近辺の図書館ができたのは1987年だというから私が生まれてから40年後のことだ。