ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

生産者も消費者も

 大企業が儲かるとおかげで滴が下々まで垂れてくるので、中小企業も、消費者もその恩恵に浴するという考え方がある。本当にそうなっているのかどうか考えている人は随分たくさんいることだろう。なんせ理論として語られるくらいだ。テレビに出てきて大企業の経営者に次から次にインタビューをして「ほ、ほう!それは凄い!サラリーマン社長で2020年のことまで考えている経営者はいませんよ!」とほぼ多くの経営者がそうであるサラリーマン社長をおだて上げている自称経済評論家がいる。こういう奴がバブルをわんわん煽った。今時、たかだか10年先のことを考えない大企業経営者がいるのだとしたらそれは衰退産業そのものだ。
 米国の理論を狂信的に導入することに専念してきた港区の大学の先生の尽力にもかかわらず、短期間に企業を急成長させて売り飛ばすという米国式経営法が怖ろしくまん延するところまでは来なかった。あの方式は米国の製造業に設備投資がなされず、製造現場を潰すためには大いに役立った。あの先生は今でもしたり顔でそんな話を学生にしているのだろうか。
 日本の製造業に携わる大企業は自分たちにとってとてつもなく効率的な国家的規模の生産システムを作り上げている。ある自動車生産企業が名付けた「看板方式」というものである。この方法は今更説明するまでもなく、多くの周辺企業に細かく外注をするだけではなくて、その納入までも非常に細かく対応することを要求しており、自分が運営している組み立て工場では極力余分な資材を持たない。なぜなら事前に安全な分量の資材を工場に確保したら、それは周辺企業からの納入を受けたことになって在庫になるからである。それなら各下請け企業にぎりぎりな時期に、ぎりぎりな数量だけを納入させれば完成して販社に引き渡すまでの間だけ自らの在庫になるだけだ。
 実は私たち消費者もこうしたことをやっている。もしもの時や日々買い物に行けないことが万一起きるかも知れないから、あるいは仕事の関係で買える時間に帰ることができないからと食料庫に保存の利く食糧を確保して暮らしているかといったら段々そんなことをしなくなった。なぜなら直ぐ傍に総菜までもパックして売っているスーパーマーケットや一単位100円見当で買える店なんてものが結構都会では普通に存在し、ほぼいつでも何でも入手可能なコンビーニエンス・ストアなんてものがゴロゴロと存在しているからである。なにしろコンビニに至っては多くが強盗の恐怖におびえながら24時間対応だったりする。
 しかし、便利なシステムは誰かしらの不便、あるいは無理の踏み台の上に立っている。
看板方式によって何が起きるかといえば、周辺の下請け企業はいつでも対応できる生産体制に取り組んでいなくてはならない。資材納入用のトラック便は夜中に走るしかなくなった。昔はそんなトラックは魚と野菜の運搬車だけだった。
 コンビニの24時間対応のためには店番が24時間誰かがいなくてはならないだけではなくて、そこに商品を供給するために配達をする人も対応しなくてはならないし、その為には製造現場もそれに対応した生産体制を組まなくてはならない。だから、夜中にコンビニ店からのオーダーを受け、手配する人がいなくちゃならないし、夜中に弁当を作る人が必要になる。
 しかし、本当にそんなものが必要なのか。確かにかつてに比べたら、就労人口が増え、就労形態にバリエーションができているのだからいつでも生活を成り立たせるためにそうした生活支援業務が必要となるというのは説得力があるだろう。しかし、本当に24時間も開けている必然性があるだろうか。いつでもほとんど必要なことがコンビニで成り立つようになってきた。金も下ろせるし、公共料金も払える。それまでひとりひとりが負担していたちょっとした不便やちょっとした無理をお金で専門家に委ねるということになる。これなら自分で自分の生活を制御して行かなくても良くなる。
 便利になった。じゃ、その便利になった分で何が変わったんだろうか。一体それで誰が美味しい目を見たんだろうか。
 自動車生産企業がこぞって柏崎の部品製造会社の工場を地震被害から立ち上がるのを手伝いに行った。トヨタは300人を派遣したのだそうだ。部品を生産供給できる目処が立って応援に来た各自動車メーカーの人たちはそそくさと帰っていった。現地の状況がどうだろうと関係なく。こちらのサイトで知ったのだけれども、あのリケンの工場が操業を再開できるようになった直後に「工場につながっている水道管3本のうち、2本で水漏れが見つかり、操業を維持するのに必要な水の供給が困難になったことから、柏崎市は、周辺住民へ給水していた水道管の栓を閉め、工場へ優先的に水を送る措置をとりました」とNHKが報じたのだそうだ。
 超便利になって、一体全体誰が一番美味しい目を見ているのだろうか。「人の嫌がる商売をするのが最も金を儲けることのできる手段」とはいうけれど、実はそうではなさそうだ。そういう人を使うことが最もおいしい目を見ることが出来るということだろう。
 派遣労働者を使っている建設、港湾、医療現場は誰なのか。製造業に派遣労働者を使えるように労働者派遣法を改悪したのは誰なんだろうか。