ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

身体を鍛えない

 「還暦はな垂れ」という言葉があるんだそうで、まだまだ若いんだ、これから先がまだまだあるんだ、という人がたくさんいて、私の年代の人たちには身体を鍛えている人が結構いる。そして、病気の早期発見に努めていて、食事の改善にはとても知識が豊富だし、これを摂取するとこれに良い、という知識に長けている。
 なにしろ皆さんまだまだ現役バリバリだったりするし、そろそろようやくリタイアしたから、「これからだ!」と張り切っていたりする。人間は行動や思考ができるだけ長いこと制限されていた方がよいのかも知れない。それの解放が後になればなるほど、後までエネルギーが長続きするのかも知れない。
 近所に役者だという人がいる。それこそ昔のテレビコマーシャルじゃないが、あんまりテレビでは見ないけれど、彼も毎日ジムやプールに行っている。
 テレビに出てくるタレントや歌手の人たちの話をテレビで見ていると誰も彼もみんなジムに通っているんだということを匂わす。「あの人とは実はジムが一緒なんですが・・」なんて普通に話が出る。
 だからみんな年齢を聞いて「え〜っ!」と驚くような容姿を保っている。先日テレビで前田美波里を見て恐れ入った。ほぼ同年齢だけれど、多少肌の衰えがあったとしても彼女のあの張りのある様子は全くといって良いほど昔と変わらないぞ。昔は私も追いつけそうだと思っていたけれど、今や全くの話親子ほどの年齢差を感じそうだ。
 毎日ジムに行っていて、ジムに暮らしているんじゃないのかと冗談を言われている知人がいるが、彼は今でもとてもTーシャツが似合う。一目見て誰でもが彼の実年齢をあてられない。
 つい最近リタイアしたご近所さんはほぼ毎朝エレベーターで出会う。彼も毎朝公共施設にあるトレーニングルームに通っている。よく続きますねぇ、というとこれをやらないと前日の酒が抜けないと仰るがそれは多分謙遜されているわけで、きちんと自分を制御できているということだ。

 その一方に私を含めてそんなことを何もしないという奴らもいる。タバコも止めないし、酒も止めない。その挙げ句の果てに検診には行かないし、行ったとしてもその結果を聞きに行かない。何でだと聞くとそんなの知ったら怖くて生きて行かれないという。これを聞いた人は殆ど呆れた顔をする。
 久しぶりに逢った趣味は酒だけだというタイプの友人が「しばらく酒を禁じられている」という。彼は多分これまでの人生の中で酒を制限したことなんてないと思う。その彼が酒を禁じられているというのだからそりゃ大変だ。どうやら病気発覚のようだ。なんでわかっちゃったんだろうか。来月じっくりその話を聞く予定。

 ちゃんと自分を律してきちんとした身体管理をしようとする人たちには「自分をより良く他人に見せたい」という願望もある。長く生きて周囲の人の役に立ちたいと願望している人ももちろんたくさんいるだろう。しかし、どんなことをしたって、何が起きようと、どうせ誰かが見ているわきゃねぇんだから、と思ったらそうしたことにエネルギーを割く気力は湧かない。
 例えば家から外に出かけるときに、誰に見せるわけでもないのに、シャツとズボンと靴のコーディネーションを考えるのはなんでだろうかと考えると、しばし佇む。そりゃタレントや人前に出る人は好印象を与えるためにそうしたことにエネルギーを注ぐ。スタイリストまで専用に契約して。後はお金のある人たちがブランドものを身につけて自己満足する。われわれくらいになるとUNIQLOや無印でどうにかする。つまらないけれど、凝ったことする立場にいない。
 ひとつには「あの人ちぐはぐだよなぁ」と思われたくないという気持ちはある。この「ちぐはぐ」というのはとても微妙で、これだけは金をかければ解決するというわけではない。
 もうひとつはひょっとしたらとても美味しいことに遭遇してしまうかも知れないという妄想に備えているのかも知れない。突然、人気の的になってしまったらどうしようと(そんなバカなことは起こりえないのに)。巣鴨に遊びに行ったら綾小路きみまろにインタビューされるかも知れないものね。

 しかし、都会の外れの片隅、あるいは中心でも、ひとりで鬱々と暮らし、誰に見られるわけでもなく、繁華街の雑踏の中に身を置いてみると、隣を歩いている男が、あるいはバスの隣に座った男がひょっとすると自分の化身であってもおかしくないというような錯覚にとらわれて、思わず指を伸ばしてそいつを押してその感覚を確かめずにはいられないような状況に暮らしている人にとっては、そんなことは全くの話、一切関係がない。何を着てもモノトーンに見えてしまうし、どんな意識を持ったところで周囲にとけ込んでしまう。
 そうじゃない!俺は違うんだ!私はひとつ抜け出しているんだと周囲の同級生たちから見るととんでもない格好をしている女子中学生や女子高校生たちは、それまで見てきた狭い社会から飛び出したまでは良いけれど、飛び出してみたら、そんな格好はその上の社会では底辺をはいずり回っている人たちの格好だったことに愕然とするのかと思ったら、いやいや、とんでもない、今やもう気がつこうが気がつくまいが、すでに繋がってしまっていたりする。

 身体も鍛えず、ちゃんと検診もせず、マメに医者にも行かず、人目を意識した姿形にエネルギーを費やすことを知らないおっさんは一体どんな終わり方をするのだろうか・・・ま、おおよそ見当はつく。