ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

街へ

 昨日の夜から、今日は昼飯には必ずすきな蕎麦屋「弁天」に行って金曜日に限ってディスカウントになるという天ちらでもって蕎麦をたぐろうという寸法。連れあいが昼過ぎに帰ってきて、やおら押っ取り刀で駆けつけると、もう腹はぐぅぐぅと音をたてんばかりに減ってきて、店の横に差し掛かるやぷ〜んと漂うだしの匂いで留めを刺されるという奴。
 店を開けると、もう昼飯時からややずれていたから中ではおばあさんが二人と爺さんがひとり汁をすすっているという場面。そこに入るや「その金曜日安くなるって云う奴!」というと玉子焼きと天ぷらなんだという。海老天が入っているのと野菜天だけのがあるけれどどうするか?と可愛い女性が聴く。(明日この店は女性は可愛い子ばっかりなんだ。それも可愛いといっても今のはではでしいんじゃなくて、健康的な可愛さだから気持ちが良い。)海老が入っている奴ね!といって、盛りをそれぞれ一枚頼んだ。やってきた玉子焼きと天ぷらを見て度肝を抜かれちまった。こりゃどう見てもうちじゃ三人前に相当する。信州の友達の夫婦とか、朝霞の友達の夫婦だったら充分二人で行けるだろうけれど。
 アッツアッツの玉子焼きがもうふわぁふわぁで、出汁がたっぷりで、こんな旨い玉子焼きを食べたのは一体いつ以来だろうというくらいのもので、幸せを噛みしめてしまうというくらい。また、これだからこそ大根おろしがうまくなる。
 天ぷらがやってきてみたら、こっちにはなんと海老が三本ものっていて、あぁ、やっぱりこれは三人前だよなぁと思う。獅子唐、人参(これが甘い!)、サツマイモ、茄子、蓮根といった野菜。こっちが嬉しい悲鳴を上げているところにやってきたお二人連れと店の人が、一昨日の東京スカイツリーのライトアップが随分期待はずれだったなぁという話からこっちも話に加わった。彼等は良く来ている人らしいが、珍しかったらしいけれど、直ぐに松茸蕎麦を注文。ここの松茸蕎麦はお得だといっていたから、早いうちにこれも仕留めなくてはならぬ。
 夜は国立劇場の演芸場が上席、中席それぞれに一度だけやってくる金曜日の夜の回。金曜日の夜に盛り場が近所には見あたらない永田町までえっちらおっちらやってくる人はいないらしくて、いつも金曜日夜は客の入りが悪い。実は今日も行く気にはなっていなかったのだけれど、気がついたらメモに10月中席国立と書いてあるだけで、こりゃ一体なんだろうと、国立のサイトを見たらトリが馬生で、二つ目が馬治、馬吉、三木男が日替わりで勤めることになっていることを思い出す。午前中に電話をしてみたら、オペレーターの方に席はどうです?とお伺いをしたら、案の定「たっぷり」というお返事を戴いた。
 もうとっぷりと日が暮れてしまった永田町の駅を午後5時半頃に到着すると、いやいや、こんなにがらがらの国立ははじめて。もちろん金曜日だということもあるのかも知れないけれど。
 私にとっては馬生の日替わり演目が楽しみだし、さっきの三人がどうなってきたのかを確かめることができるという楽しみはあるけれど、演者の中にテレビに登場したり、ラジオの番組でレギュラーをやっている奴がいる訳じゃないから、華やかさがあるわけではない。あそこまで足を運ぼうと思えないのかもしれない。
 前座は古今亭半輔で「やかん」どう見ても志ん輔の弟子って名前だろう。今年の1月入門だっていうけれど、この口調なんだから多分どこかの大学の落研かなんかの出身じゃないだろうか。どう見てもずぶの素人が一年も経たないうちにここまでは来ない。この話はずいぶん昔からあるけれど、アルマイトのやかんなんてものが江戸時代にあったはずはないな。
 古今亭馬吉は「子ほめ」。彼の噺を最後に聴いたのはいつだったんだろう。思い出せない。彼は何をやらせても上手いのはわかっているのだけれど、話し始めて気がついたのは語尾にところどころ師匠の馬生が出てきて、声のつくりに所々正雀が出てくるという、なかなか大所を抑えているじゃないかというあたりが成長かもしれない。噺家を見るにはこうした楽しみがある。
 三遊亭丈二は私は全く見たことも聞いたこともない。名前を見たら円丈の弟子なんだろうというのは想像がつくけれど、出てきてすぐに「私の前の名前なんてひどいんですから、小田原丈ってんですからぁ」と聞かされて、こりゃ大丈夫なんだろうかと思ったのに、「権助魚」に入るやいなや、さすがじゃないか、と思わせて楽しませて貰った。円丈門下だけあって新作が多いらしい。
 漫才の笑組はここでは何回か見ている。キャラクターが結構すきなんだけれど、安定していていつも気が楽だ。これってほめ言葉になっているんだろうか。
 初音屋左橋ははじめて聴いた。先代の馬生の弟子だから今の馬生の弟弟子ということになる。3年後に先代馬生死後、伯楽門下だという。「四段目」。さすがに馬生に弟子入りしただけあってみごとな芝居噺だねぇ。
 〆治の代演は柳家小ゑん。うわぁ〜随分長いこと見てないぞ、この人はぁ〜。尤も国立以外に足を運ばない、私が悪いといえばそれまでか。しかし、今日のこの新作はなんというタイトルなんだろう。スズキ係長が固執する寿司政の握りの上はそんなに憧れだったのかぁ〜!なんにしても電話番号の局番が3ケタって、いつの時代の噺なんだぁ〜!
 中入り後はお待ちかねの「だるま食堂」。彼女たちの名声(?)は伝え聞いているのだけれど、これまで生で見たことがなかった。なにしろプロレスロックの「覆面☆食堂」がかつて「覆面☆兄弟」と名乗っていたのに、彼女たちに出逢ってからお願いをしてバンドの名前を変えたのだというくらいのものである。もっと会場が引くかと思ったら、爺さん婆さんにも受けていて、嬉しく意外。
 橘家圓太郎「西行鼓ヶ滝」。小朝門下だそうで、この人を見たのも、この噺を聴いたのも私ははじめて。本当かどうか知らないが、ご本人が鼓を習ったことがあるといい、「ぽ・く・た・ち」というしゃれをかましたけれど、場内に伝わらず。珍しく福岡出身。噺は良いんだけれど、申し訳ないが、所々聴き取りにくい。思わず耳に手を当ててしまう。立て板に水に語ろうとし過ぎるんじゃないだろうか。
 ギターコントは「ぺぺ桜井」。今日の衣装はオレンジ色のタキシード。これって、ひょっとしてハロウィーンを意識しているの?まさかぁ。彼の話も段々聴きにくくなってきているんだけれど、こりゃしょうがないのか。
 トリは金原亭馬生。今日は「王子の狐」。30分間。多分馬生のこの噺は以前に思いっきりたっぷりと時間をかけた噺を聴いたことがある。
 馬生は多分初めての著書を出した。馬吉が高座で懐から取り出して見せた本だ。「落語家の値打ち」うなぎ書房。大師匠の志ん生が亡くなったところから始まる。サイン本を入手。
 来週は火曜日にもう一度参上の予定。三木男がどれほど成長したのかが楽しみだ。

落語家の値打ち

落語家の値打ち