ほぼ足りてまだ欲 その先

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保阪正康

 どうやらこの本が売れているらしい。保阪正康フォロワーである私は既に入手して読み始めているけれど、東條英機石原莞爾のところまでしか来ていない。それでも、これまでの保阪正康の著作の中に書かれていなかった、かつてのインタビューで得た聞き書きが書かれていてとても興味深い。石原莞爾が如何に卓越した人間だったのかが良くわかる。
 得てしてこの辺の人物評伝は非常に偏っていることがほとんどで、支持者は大人物に書き、そうでない人は人非人に書く。
 ところで保阪正康こちらでこんなことを書いている。

昨年秋頃に刊行された鴻上尚史さんの『不死身の特攻兵』(講談社現代新書)が話題になりましたね。その頃に半藤一利さんと対談したのですが、半藤さんが「今は佐々木(友次)のことを知らない人もいるんだな」って言うのです。私も半藤さんと同様のことを思っていました。

 だから、保阪正康は鴻上の著作を「今頃何をいっているんでしょうか」と切って捨てていたんだと今わかった。彼にとっては微に入り細に入りわかっていた当たり前のことだったからです。

「史実は一巡したんだなぁ」と。ある時代には常識とされている史実が、一巡して、次の世代に継承されずストンと穴があいている。今回、そのことが分かったのは大発見でした。

 そうなんです。保阪正康は1939年12月の生まれですから、現在78歳ということになりますが、彼から8歳も歳下の、この私ですら、ほぼ同じ感慨を抱きます。「一巡」しているのです。
 例えば、東京ローズとされたアイバ・戸栗・ダキノ(アイバ・戸栗・郁子)を私はドウス昌代の著作等で彼女の人生を垣間見てきたけれど、多くの日本人は彼女のことをほとんど知らない。私にとっては周知の人であるけれど、もうとっくに通り過ぎてしまった人なのだ。あれから、米国籍をもちながら皇軍の兵士として、特高に出撃した、あるいは従軍した元日系米国人たち、あるいは米国本土で強制隔離され数奇な人生を歩む結果となった人たちに関心を向けてきた。
 70年を経過して、とっくに一巡してしまっているのです。