「はだしのゲン」という1972年くらいから始まった漫画を知らない人は、私たちの世代にはほとんどいないと思う。
広島で被爆した中岡元という少年を描いた中沢啓治の長編漫画でほとんどが作者の実体験だと言われている。
しかし、ちゃんと読んだことがない。なんでかというと、中沢啓治の漫画は絵が上手いとはいえなくて、辛い題材が多い上に、絵が好きになれなかったからだ。しかし、漫画にしては現実の理不尽さをつぶさに語っていて、ちゃんと読まれるべきだとは思っていた。
1975年に汐文社版全4巻が刊行され、その後日本共産党や、日教組が支持するようになった。ということは、日本会議や歴史修正主義者たちからは目の敵にされるようになる。確かに中身には事実とは異なる表現や絵があるからその点をつかれれば、事実誤認があることは事実だけれど、概ねの中身はその当時を如実に表していいる。私も、戦闘機のプロペラが空中で折れ曲がることはないと思ったし、アインシュタインは原爆の開発それ自体には関与していなかったし、リトルボーイにパラシュートなんてついていなかったけれど、家を失った(当時はそういわれていた)片親世帯に世間が冷たかったことは事実だ。
しかし、2012年の松江市の小学校から「はだしのゲン」を撤去させた事件では時の文科大臣・下村博文が「子供の発達段階に応じた教育的配慮は必要として、「学校図書の取り扱いについて学校に指示するのは、教育委員会の通常の権限の範囲内」とした(ウィキペディア)。しかし、翌年日本図書館協会は『中沢啓治著「はだしのゲン」の利用制限について(要望)』を発表、ほとんどの学校で撤去が撤回された。
それでも鳥取市立中央図書館や泉佐野市の千代松大耕市長が本作を撤去させた。
今年の2月に驚くべきニュースが報じられた。
「広島市教育委員会は、市立小学校3年生向けの平和学習教材に引用掲載してきた漫画「はだしのゲン」を、2023年度から削除し、別の被爆者体験談に差し替えることを決めた。理由は「被爆の実相に迫りにくい」からだという。(東京新聞2023年2月18日)
あの広島市が、である。
市教委の高田尚志指導第1課長は「漫画の一部を切り取ったものでは、主人公が置かれた状況などを補助的に説明する必要が生じ、時間内に学ばせたい内容が伝わらないという声があった」と説明。23年度版からはゲンの掲載をやめ、被爆者の体験を親族に聞き取って再構成した教材を使うというと書いてある。
そんなことを言う奴が出るような時代になってしまったのかと、驚いた。ならば、ちゃんと「はだしのゲン」を読んでおこうと、地元の図書館で検索をしてみると汐文社の1988年の愛蔵版全10巻があることがわかった。第一巻からスキャンして手元に残すことにした。自宅のスキャナーではいちいちページをめくってはボタンを押していく。結構な手間だ。そのうちスマホのアプリでページを開いてスキャンするというものを発見。幾分時間が短縮できるようになった。
そこへ先週のニュースで「広島市立小中高校の平和教材から漫画「はだしのゲン」が削除される方針が報道された2月、全国の書店でゲンの漫画本の売り上げが通常の10倍になった」ことが報じられた。ほうらみろ!日本人は偉いなぁ、下村博文やら広島市教育委員会よりもなんぼか偉いことが証明されたぞ。