ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

経済財政諮問会議

今朝の朝日新聞は一面トップと2面の「時々刻々」をつかって経済財政諮問会議で語られているという「労働ビッグバン」なる労働法制の見直し議論を報じている。最も問題として捉えなくてはならないのは、労働者派遣法を巡る議論である。経済財政諮問会議なるものは内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第二十五条の規定に基づき、制定された経済財政諮問会議令(平成十二年政令第二百五十七号)に基づいて召集されているんだそうだ。こんな法律が作られて初めて設置されるんだ。
 メンバーは「当該特定の専門的事項に関し学識経験を有する者のうちから、内閣総理大臣が任命(第一条)」することになっているんだからこの人になって貰おうと総理大臣が決めればいいことではある。おぼっちゃま内閣になるまでは閣僚の他(いわゆる民間議員)はウシオ電機牛尾治朗経団連の会長をやっていたトヨタ奥田碩大阪大学大学院経済学研究科教授の本間正明東京大学大学院経済学研究科教授の吉川洋だった。
 今のメンバーはと見てやるとこんな感じ。

日経新聞はこう伝えている。

(NIKKEI NET 061201 07:02)
働き方の多様化へ専門調査会・諮問会議
 経済財政諮問会議は30日、労働法制の見直し加速を狙い専門調査会を設けると決めた。雇用流動化から外国人受け入れまで網羅的に問題点を洗い出し、来夏に改革工程表を策定する。働き手の労働意欲を高めながら生産性を向上させる改革案を作れるかがポイントになる。
 同日の諮問会議では、御手洗冨士夫キヤノン会長ら民間議員が多様な働き方を可能とする「労働ビッグバン」に向け、関連制度を見直すべきだと提言。専門調査会設置の了承を得た。

この記事を読んだ限りでは「働き手は労働意欲を高めることのできるような仕組みが作られる」んだろうなと期待する改革案ができそうな気がする。
しかし、ネット上の朝日を見ると:

ASAHI.NET 2006年12月01日03時04分
 諮問会議では、八代尚宏国際基督教大教授や御手洗冨士夫日本経団連会長ら民間議員4人が、「労働ビッグバンと再チャレンジ支援」と題する文書を提出。労働者派遣法の見直しを始め、外国人労働者の就労範囲の拡大、最低賃金制度のあり方や育児サービスの充実などを検討課題として提案した。
 なかでも注目されるのが、派遣労働者に関する規制だ。現在は派遣期間に最長3年といった制限があり、長期間働いた労働者への直接雇用の申し込み義務も企業側に課せられている。民間議員らはこの規制があるため、企業が正社員化を避けようと、派遣労働者に対して短期間で契約を打ち切るなど、雇用の不安定化をもたらしていると指摘。規制緩和で派遣期間の制限をなくすことで、「派遣労働者の真の保護につながる」と主張している。
 しかし、「企業が労働者を直接雇用するのが原則」という労働法制の基本原則に深くかかわる。戦後60年近く守られてきたこの原則に関する議論になりそうだ。

ここで語られている民間議員4人が提出した文書は経済財政諮問機関のサイトで既に公開されているし、その後の会見もテキストでアップされている。中身の問題はあるけれど、こんなに迅速に昨日の様子がアップされる政府機関というのはこれまでに見たことがない。この点は評価できるのだけれども、問題はもちろん中身にある。
太田大臣の会見から:

労働ビッグバンはまさに今日がスタートで、民間議員ペーパーのポイントは、専門調査会をつくって、民間議員のペーパーにあるような点について、これから議論をしていきたいということである。
 これに対して、柳澤大臣からは、労使自治という言葉があるけれども、労使は対等ではないというのが労働法制の基本の考え方という発言、あるいは諮問会議や専門調査会で議論するというのは、それはもちろんいいけれども、労政審では、労使公の三者で審議する仕組みがある、そこでエンドースしなければならないという点は十分に配慮してほしい、というような御発言がありました。

質疑の中でもこれは取り上げられていてどこの記者が質問したのかは明らかにされてはいないが、

  • (問)先ほどの派遣労働者のところで、期間制限が本当に必要か、規制のマイナス面があるのではという議論があったというふうにおっしゃったのですが、具体的にマイナス面というのは、今1年ないし3年たつと企業が直接雇用しなきゃいけないという法律がございますが、それがあるということは何がマイナスであるという御議論になったのかということをお伺いしたいんですけれども。
    • (答)3年であると、例えば2年目に解雇してしまう、派遣の契約をやめてしまうとう歪みが生じるということです。
  • (問)そうしますと、当然ながら派遣は正社員よりも賃金が安く、しかも雇用が安定しないという実態があるんですが、期間制限がなくなると、これはちょっと極端かもしれませんけれども、ずっと派遣で生活していくという人が増える可能性もあるんですけれども、例えばその保証として派遣の賃金の安定を図るとか、そういった御議論も出たのでしょうか。
    • (答)いえ、今日は時間も限られておりましたので、そこまでの議論はありません。今後、専門調査会の中で議論をしていきたいと思います。

 まさしく問題はここにある。そもそもこの議論の発端は本末転倒なのだ。短期間に派遣労働者を切ってしまう経営者がいるから、派遣労働者はノウハウや技術の習得ができず、単なる使い捨て(これまでほとんどの労働者は実質そうなんだけれども)になってしまう。だから、「経営者がそうした手段を執ることができないようにして、経験を積んだ労働者をきちんと正社員として雇用しなくちゃダメだよ」というのが現在の考え方(規制)である。それを「だったら正式雇用規制を取っ払っちゃえばいつまでも雇用されるじゃないか」という議論にすり替えている。いつまでも雇用される保障は全くない上にいつまでも労働環境が変わらないということが容易に想像されるし、それがはっきりいって雇用側の思惑だ。先の勝手・恥知らず総理のおかげで「規制」という言葉は全て悪いように聞こえていて、「規制撤廃」は打ち出の小槌のように扱われている嫌いがないでもないが、この「規制」はそれでなくても弱い労働者の立場を守るためにある。これを取っ払えと云うのはすぐに「経営者の好きなように雇用調整ができる」という方向に突っ走ると云うことである。これでは外国人研修・実習制度が「短期間では雇用効率が悪いから期間を長くしろ」という雇用者側の要請に応えてより声の小さな外国人労働者を奴隷化していて、利益効率を上げることに寄与しているのと同じである。
 根本的には労働者派遣法をずるずるべったりに、労働者を守るという考えから雇用者の儲けを優先する方向に持って行っていることに原因がある。労働官僚はまさに自民党という経営者団体による傀儡政権の僕(しもべ)に過ぎない。例えば企業の被用者数の中に占める派遣労働者の割合を一定以下になるように規制する、という考え方はどうだろうか。尤もそこには正直な数字を企業が提供しないという逃げ道があるかも知れない。それをどの様に規制するかという点はじっくりと考えなくてはならないだろうけれど。
 守れないのであれば、そんなものはやめてしまえという議論を本当にこんなに立派な肩書きを持っている人たちが真剣に考えているとは考えられないし、考えたくないものだ。しかし、現実はそうなんだろう。第三位商社の会長さんは「仕事は人を磨く」といっているんだそうだけれど(もちろんそんなヨイショ物の本なんて手にしている暇はないから中身は知らないが)、派遣で低賃金におかれてノウハウを得ても技術を得ても報われない状態におかれていたら、人はその仕事を誇りに思うだろうか。誇りに思えない仕事が人を磨いてくれるだろうか。こんな状況がこの国のまさに「品格」なんだと恐れ入る次第。東大とICUの教授が真剣にこの提案を考えているのだとしたら、それぞれのゼミの出身者に遭遇したならば眉に唾して観察した方がよい。私の母校にもおられるが「御用学者」とは巧いネーミングだ。