ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

悩み行脚

 寒い寒い霧雨が舞い散る中、わざわざ用もないのに出掛けなくたって良いようなものだけれど、木曜日以来家から出ていないので、それも如何なものかと、出掛けることにした。いや、全く用がないわけでもなくて、銀座・伊東屋に出してあったペリカンの万年筆の修理ができたという電話が留守電に入っていたので、それを取りに行くという立派な用事があるのだけれど、それは別に今日じゃなくてはならないというわけではないので、今日出掛ける特別な理由にはならない。じゃ、決め手は一体なんだったかというと、星座占いなんである。めったやたらと良い巡り合わせなんである。
 地下鉄に乗ろうとして駅まで歩くのに、銀座に行くのにいつもは必ずこっちと決めた地下鉄ではなくて、わざわざ違う地下鉄に乗る。こっちの方が遠回りで、ということは30円高いのに、である。これには理由はない。ただ、何となくこっちの方がこの冷たい霧雨に似合いそうだったからだ。そうだ、帰りもこっちの路線で帰ってこよう、そうすれば美味しいパンが買えるからと、思いながら地下鉄に乗る。
 目の前に座っている男女はどういう関係なんだろうかと随分気になった。男の方は珍しくゴアブーツなんかを履いている。上着は皮でそれほど暖かそうには見えないけれど、薄着だ。女性の方はてらてらしたダウンの黒いジャケットを着ている。手をつないだり、どこかを触っているというふうでもない。でも単なるデイトの関係じゃない、明らかに生活を共にしている雰囲気だ。
 そこへ途中の乗換駅から髪の毛をつんつん尖らせ、ワイン色のこれまた皮のジャケットを着た男のあとを黒い襟が拡がったコートを着た女性足早について車内を歩く。これは明らかに日常的に生活を共にしている関係ではなさそうだ。優先席の真ん中に座ったかと思うと、男はすっと立って、地下鉄の路線図を暫し眺めている。要するにこの地下鉄に乗り慣れてはいなさそうな雰囲気だ。良く見ると女性の方は随分手の込んだ化粧をしていて、一線級のモデルが雑誌の中でしていそうな化粧を施している。目立つ。この二人はどこで合流したんだろうか。昨日の夜から一緒で女性のアパートから二人して出てきたのだろうか。それにしても女性のこのコートと、男のこの格好の釣り合いが取れない。これからどこに行くのか。そうか、多分女性がお客のところに呼ばれていて、着飾って行かなくてはならないのだけれど、男が未練たらしくも途中まで着いていくという奴かも知れないな、と話を作っているうちに銀座に電車は着いた。
 しゃらしゃらした雨に濡れるのも良いけれど、そんなところに出なくても松坂屋の下に出る道を私は知っているぞといわんばかりに別館の地下経由で松坂屋地下一階に出る。ここは三越松屋と違って全く華やかさのないデパ地下なんだけれど、そこが、というか、それだからこそ私の贔屓とするフロアーなんである。なにしろ混んでいない。ということは儲かっていないということでもあるのだけれど。ここに「セゾン・ファクトリー」という店がある。ドレッシングだとかジャムとかフルーツソースとか洒落ていて珍しいのだけれど、ちょっとお高いものが並んでいる。この会社は実は山形の高畠にある。えっ!と驚いてしまうようなところにあるのだ。あの辺りは果物が旨い。有機農業が根付いている。温泉がある。蕎麦が旨い。町役場の周りに公的施設が集まっている・・・のはあんまり関係がないけれど、とてもあの景色から想像ができないのだけれど、前からこの会社が美味しそうなものを売っているのは知っていた。知っていたけれど、一度なんだったか忘れたけれど、高畠の売店で買ったことがあっただけだ。そうだ、きっとここの人参のドレッシングを試したら旨いに違いないと、お尋ねしたら、なんと4種類も取り出してこられた。その中の一番安い、一番普通のものを試しに入手した。
 今日ここにやってきたのはいつものように天丼かカツ丼を食べるんじゃない。そうかといってキッチン・スギモトのイート・インですき重を食べるのでもなくて、牛の切り落としを買って帰ろうというのだ。そうすればうちで食べられる。
 教文館週刊金曜日と昨日誰かがtwitterで紹介していたちくま新書の「キュレーションの時代」(佐々木俊尚著)を入手。手に持っている肉が気になる。
 アップル銀座を覗くと土曜日にもかかわらず、この冷たい霧雨のためか、先週末のように人が溢れているという雰囲気ではない。ちょっといじっていると直ぐに誰かが説明しに来てくれるというくらいに余裕があるのは意外だった。MacBookAirでも有線LANで今使っているデスクトップのドライブを使ってインストールすることが可能だという手段を教わって、なんだそれなら外付けのドライバーは要らないのだと知る。余程買っちゃおうかと思ったんだけれど、もう一回考える。なんたって、10万円を超える買い物だから。我ながら煮え切らない態度に呆れる。
 いよいよ伊東屋の中2階にあがって万年筆を請け出す(こういうと質屋にでも入れていたかのようだ)。修理代金は4,200円。ペン先と軸を取り替えたという。この200円は消費税なわけか。
 京橋まで歩くがさすがにこの天候ではBig Issueのおじさんはいない。こっちに来てしまってはパンが買えないと、とうとう日本橋まで歩いてパンを買う。
 帰ろうと地下鉄に乗ると一つぽっかりと席が空いていたので「失礼」と声を掛けて座った。左側に20代の男、その向こうに同じくらいな女性が座っているのだけれど、二人ともにDSを両手で握りしめて熱中している。途中で二人が一斉に立った。降りていくのを見送っていると、目の前の改札口から外に出ない。出ないで改札口横のステンレスの柵に寄りかかったようにして二人で向かい合ってまだゲームをしている。地下鉄が走り出すと二人して私を見ている。なんだろう?私が臭いのか?と自分で悩んでしまいそうだ。すると、次の駅で寝ていた右隣の男ががばっと起き上がって降りていく。しかし、フォームに足を出しながら私を振り返ってみている。なんだろう?本当になんか匂うのかなぁ。いやだなぁ。昨日は風呂に入ってしっかり耳の後ろまでも洗ったはずなのに。呼び止めて、なんかあるの?と聞いてみたいけれど、それじゃまるで「オイ、ガンつけんじゃねぇよ!」といちゃもんつけているみたいだものなぁ。