1980年代にほぼ毎晩の様に通っていた、泰明小学校前の路地にあった小さなジャズ・バーがついに閉店したと、連絡があった。わずか40数年の期間だったけれど、正にバブルのさなかには、多くの映画、出版、テレビ業界、化粧品、サッカー業界人で賑わっていた。普通の企業サラリーマンで顔を見せるのは少なかったけれど、そういう人たちはすぐに匂いで判別がついた。というか、服装でわかった。実に地味なスーツを着ているものだった。古いジャズのレコードを聴きながら他愛のない話をしているのは面白かった。日頃の自分の行動範囲の中では知り得ない情報を知らず知らずのうちに取り込んでいた。昼に珈琲を出している男がジャズが好きで、水商売の姉が夜を仕切っていた。当時のあの界隈だから、本当のオーナーが誰なのか、よくわからん。そんなことはどうでも良くて、楽しかった。
もう当時の人間のほとんどはリタイアしていることだろう。まだ働いていると聞いているのは、映画関係者だけじゃないかなぁ。
音は消えていき、人は通り過ぎていくが、街はそんなことを覚えてもいないかの如くだ。