最終の地下鉄に乗った。酔ってはいたけれど、さほどのことはない。ガラガラだった。平日だったからだろうか。目の前の席に右手に眼鏡を握ってグデッと寝ている若い女性がいた。ひとつ空いた隣に30歳ちょっと前くらいの割と大きな男の人が座っていた。
電車が走り始めると、みるみるうちにこの女性がその男性側に空いている席にドドッと横倒しになった。やれやれ大丈夫かなぁと思ううちに今度はその女性が戻したりするんじゃないかとそっちが心配になってきた。というのはどうやら酔っぱらっているらしいということがわかってきたからだ。
ところがそうこうするうちに、彼女は腕を持ち上げて、その男の人の太ももにぽんと載せたのだ。どういうこと?無意識でそんなことする?その男性は「え〜!ありかよ!」という表情を周囲に投げかける。
駅が来て、ガクンとなって彼女は自分がそんな行動に出ていたことを知りもしないという風情でその男性の顔をしたから見上げた。(え、知り合いだったのかよ?!)と驚いているとやっぱりそうではなかったらしくて、右手に持っていた眼鏡をやおらかけて、もう一度見ている。すると、手放していたバッグを突っかけるように掴むと、その男性に一緒に降りてよという風に腕をとろうとする。男性は、声を出さずに止めてくださいといっている。分かったのか、わからないのかその酔っぱらい女性は降りていき、ホームのベンチにドッカと座った。電車は動き出す。彼女が乗るべき電車はもう翌朝までこない。