ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

海洋汚染

 そう、あれは1972年くらいの話だから、いまをさること40年ほど前ということになる。
 当時造船所で働いていた私が残業で事務所に残っていたときに、修繕船の現場担当者から電話がかかってきて、大変だ、油水分離器が壊れて油がドックサイドにこぼれた!という。古い船が修理に入ると、船底に溜まったビルジという、まぁ、なんだかわからない油まみれの液体を吸い取って、それを遠心分離器のようなものにかけて油と水に分けて、それをまた処理する。ところがそれが壊れて溢れて、岸壁に流れ出しちゃったというわけだ。
 そりゃ大変だ、おおごとになる。それでなくても造船所は油を扱うから海上保安庁から目の敵にされている。一緒に仕事に残っていたうちの事務所の3人が走り出すと、他からもばらばらと人が出てきて、現場でどうするといっているうちに誰かが「そうだ、中和剤が倉庫にたくさんあるから、あれをぶん撒いて中和させれば油は分解して沈んじゃうからばれないよ!」というのでみんなでリヤカーに一斗缶をいくつものっけて運び、バンバンぶん撒いた。
 悪いことはできないもので、こっちもだ、あっちもだと海面を照らしながらやっているところに海上保安庁の船がやってきちゃった。あっちは強いサーチライトを持っているから直ぐさま照らし出されて何をやっているのかがばれた。翌日、偉い人たちは海上保安庁に呼び出されてしこたま怒られた。隠そうとしたんだから余計悪い。
 しかし、話はこれで終わらなかった。数週間経って、そのドックサイドに係船されていた新造船が完成して試運転に出た。順調に走らせて、ドライドックに入れて船体の塗装を点検したときにビックラこいた。ぶん撒いた時に中和剤はこぼれた油を分解するのと同時に船体に塗ってあったペンキまで分解しちゃったのだ。
 愚かな考えはあとでえらいことに繋がるという教訓の典型だった。あれからは工場の周りにオイルフェンスを回しておくことになった。なんでもっと前から思いつかなかったのかと思ったけれど、多分そんなことをしたら金がかかるからだったのだろう。それに当時は環境に対する影響についてうるさくいうと煙たがられる傾向にあったことは否めない。
 この時代に、どんなに放射能に汚染された水をだらだら海洋に垂れ流しても誰一人としてお咎めを受けないのはどうしても理解ができない。