ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

豪州

 もう大昔の話なんだけれど、豪州にいた頃、仕事でクイーンズランドの田舎へ行かなきゃならなかった。私と東京から出張してきた同僚二人。そしてブリスベンに事務所を構えているオージーの4人だ。Brisbaneから北へ600kmほど上がったところにあるGladstoneという街の空港で合流することになっていた。
 そのオージーが開発権を持っている某地域での炭鉱の開発の可能性を検討することになったので現地を見に行ったのだ。
 空港で合流するにあたって、そのオージーからはどうせレンタカーするんだったら四駆の車を手配してくれといわれていた。ところが私はもう何年もギアシフトの車なんて運転したことがない。日本から来た同僚と、そのオージーが交代で運転した。
 今はもう、そこからどこへ行ったのか、全く思い出せないのだけれど、内陸へどんどん走って行った。道路の周りは牧場ばっかりだった。何とかクリークという川を何本も何本もわたる。そんな川は一旦シャワーが来たらあっという間に水があふれてその辺一帯が水で覆われるけれど、そんなときは目印を頼りにゆっくり行けば良いんだという。だから、この辺を走っている四駆の排ガスパイプは上に上がっているんだと聞いて、なるほどと膝を打った。
 その日は内陸の田舎の町のモーテルに泊まった。古い木造の平屋の建物だった。私にあてがわれた部屋は奥の風がよく通る部屋だった。冷蔵庫の上に扇風機が載っている。部屋に電話はあるけれど、受話器を取ってもウンでもスンでもない。あ、もう交換機が動かないから電話するならフロントに来てくれというので、そこへいってSydneyの事務所へ無事に到着したと連絡したことだけは覚えている。
 部屋に戻ってくると、冷蔵庫のプラグから煙が出ていた!慌てて人を呼ぶとおばさんが出てきてコードを持ってぐいと引っ張った。使わなくて良いやと。どうせ入れるものがない。
 飯は母屋で食うんだけれど、選択肢は全くない。ステーキしきゃない。しかもマスタード・ソース。しかも、スーパーの棚で見たことがあるマスタード・ソースの瓶がそのまま出てくる。しかし、それが旨かった。
 翌朝、気持ちよい涼しさの空気を吸いに外へ出ると、学校に行く子どもたちが通り過ぎる。「あれは何人だろう」といっているのが想像できた。振り返り振り返り行く。
 四駆でようやくサイトに到着するとそこもやっぱり牧場だった。その中に車を乗り入れる。すると驚いたことに牛が車の後ろにどんどんついてくるのだ。車が来るということは何か食べ物が運ばれてくるということなんだろうか。でも彼らは牧草を食べて生きているんじゃなかったのか。
 車を駐めると、そのあとをぞろぞろついてきた牛が私たちをぐるぅ〜っと取り囲んだ。みんなして固唾を呑んで私たちを見つめているのだ。これは怯えるぞぉ。牛なんだからまさか噛みつきはしないだろうし、闘牛の牛じゃないんだから突進してくる気配もない。ないけれど、グルッと取り囲んでいるのである。あんな経験は二度とない。
 結局、私が働いていた会社はそこの石炭の開発に出資する気はこれっぱかりもなかったのに、相手に対する義理があったらしくて、私たちを派遣しただけで、帰ってレポートしたにもかかわらず、なしのつぶてだった。ま、サラリーマンなんてそんなものだ。
 暑くなってくると、あの時の現場を思い出す。