ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

疲れた


 電車が走るところをひたすらなんのナレーションもなく流している番組がある。鶴見線を流していた。
数年にわたってこの電車に乗って通勤していたことがある。
夜になると、あちこちの工場のライトがキラキラ綺麗だ!なんて馬鹿げたことをいって写真にするのが流行ったことがある。
遊びに来る連中にはキラキラが綺麗かもしれないけれど、深残をして23:45発の最終で帰る身になってみると「ふざけんな」という気になるのはしょうがないだろう。



 東京の事務所勤務をしていた頃は近いところに住んだので、会社に通勤費で負荷をかけることもないし、通勤時間も半時間だった。それが1.5時間もかかるようになって、すっかり仕事に対する愛着も薄れていった。
 何しろ埋め立てて京浜工業地帯を構築した連中の名前がそのままになっているような路線だから、実に人の流れを粗末に運ぶ路線で、あの電車で通勤していると、どんどん自分が世の中から疎んじられているような気になっていってもしょうがなかったかも知れない。時間を売って金にしているんだなという気にますますなっていった。あの路線で通っていた女性たちはどんな気分だったんだろう。駅前に一膳飯屋があって、並べられているお惣菜を自分で取ってトレイに載せ、金を払ってテーブルにおいて黙々と食べていると企業の歯車に組み込まれている意識が醸成されていくような気がした。



 そんなころに、夜中に事務所の窓から飛び降りた社員が出た。あとから聞くと、勤務時間にも自分の机の上を綺麗サッパリ片付けてはじっとしていたんだという。そんな状況を見ていた職場はなんで彼をそのままにしていたんだろうと、不思議でしょうがなかった。普通だったら職場の上司は人事に相談しないわけはないだろう。人事が医者に相談しないわけはないだろう。それでもそのままだったんだろうかと不思議でしょうがなかった。冷たい状況だった。そういえばあの頃はあちこちで鉄道に飛び込む人が出ていた時代だった。この国はいつまで経っても驚くべき自殺者が出る。警察の発表によると2023年の自殺者は前年よりも44人減少したといいながら21,837人もいる。2022年の交通事故死者数は3,541人であって自殺者は実にその6倍以上だということになる。



 当時あの電車は昼間になると、ずっと昔のチョコレート色の、床がギシギシなる、丸い電灯の、前後に運転席がついた車両を何処かから持ってきてたった一両で走っていた時には、テッチャンが乗り込んできて写真にするのが珍しくなかった。しかし、日常の風景として暮らしていた側からすると、甚だ面白くなかった。お前たちには効率からいってこんな電車がちょうどふさわしいと蔑ろにされているような気がした。インフラは民営化してはいけないのだよ。

 あのテレビに出てきた車両は、三両編成のとてもきれいなステンレス車両で今年の3月からは全部新しいタイプになったそうだ。