ほぼ足りてまだ欲 その先

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京都へ

 去年は3月に出かけたけれど、今年は松竹のサイトで南座の演目が「双蝶々」で、その一部を林家正雀が語り、二幕から前進座が歌舞伎で演じるというずいぶんユニークな演目だということが判明。この噺は「円生百席」の中に収録されているので前から知ってはいるけれど、それ以外ではほとんど聞いたことがない。大変に暗い噺で多分いまどきの寄席でこんな噺をかけたら席亭から文句が出ようというくらいの噺だから、下手なやつが演じたらもう目も当てられないことになるであろうことは想像がつく。
 実は林家正雀の噺もこれまでちゃんと聞いたことはなくて、毎年二月の国立演芸場で「鹿芝居」でうまいセリフのおやまだなぁといつも感心する程度のことである。
 この企画がどこから出たのか知らないけれど、面白いものを面白い人選と組み立てでやるものだと一気にこの芝居を見に行くことに話を決めた。こんなことでもない限り、京都に行こうじゃないかといってもきっかけがない。
 昨年の三月の京都も、たまたま大阪の大学で勉強会があってそれに知り合いの方がレクチャーをされると聞いたことがきっかけだった。
 ところが京都に到着してホテルにチェックインしてから、そのまますっと南座に向かえばよかったのに、大丸によって地下の「妙心寺三河屋」のワラビもちを持って行こうだなんて色気を出したのが間違いの元。しかも四条の通りに出たらすぐにタクシーでも拾えば良いのに、なぁに歩いていけらぁってのが大間違い。もう最後は走った!席に着いたときは前進全身びっしょりの汗。ハンドタオルを取出してそれを胸と背中に突っ込んで汗を吸わせる。いやぁ、正雀師匠が出てきたときにはまだまだ落ち着かない。
 正雀さんは、親をだまし、出入りのぼて振りの魚屋をだまし、大家がさんざんの様子を父親長兵衛に知らされてしまった長吉が大店の山崎屋に奉公したところまで。しかし、かなり長い枕で、彦六が入院中の文治のところに見舞いにいった話なんていうのは関西じゃ無理じゃないのだろうか。
 前進座の芝居には出演者がとても少ない。河原崎國太郎はなんと三役で、藤川矢之輔はまったく違うキャラクターの二役である。演目がそうだからかもしれないけれど、歌舞伎というよりはこれはどう見ても新国劇じゃないだろうか。それから舞台の転換が多すぎる。多すぎるから芝居の流れが分断されてしまって見ている方は一息をついてしまう。
 この芝居が終わってからの「狂言舞踊 『釣女』−戎詣恋釣針ー 」はとても面白かった。特に太郎冠者の中嶋宏幸は実に芸達者で藤川矢之輔との組み合わせは見応えがある。これはいうべきではないのかも知れないけれど、彼のバタ臭い感じがどうしても彼の芸達者ぶりとぶつかるように思える。