ほぼ足りてまだ欲 その先

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逆転

 昔は良く途上国の人たちから「お前の国に行って働くにはどうすれば良いんだ?」と尋ねられたもんだった。彼らから見たら日本はどんどん発展して、景気がウハウハで、どうにかしていったら良い稼ぎになるんだろうなと思われていた。多分マスコミもそう報じていたんだろう。しかし、正規に日本に来て何らかの労働に従事するのは容易じゃないし、日本のイミグレ(入管)は開かれてないから無理だよ、と説明していた。ところがそのうちにあちこちで外国人が働いているのを見るようになった。特にバブルの頃にドッと増えたという印象だった。

 当時、晴海から幕張に移りつつあった各種展示会のようなイベントの設営や撤去の現場に行くと、そんなところにも日本語がすぐには通じない外国人が働いているのに遭遇して、ここまで来たのかと思った。しかし、公式には熟練を要する職種に限るとしてあったわけだから、彼らは明らかに不法就労だ。それでも背に腹は代えられないと、現場では誰もそれを問題視なんてしていなかった。今から考えてみたら、発注元から、不法就労労働者はまずいぞと云われてもしょうがない。

 当時、日本政府は「そうだ、各地にいる日系人なら入ってきてどんな職種についても良いことにしよう」ということにした。それで南米各地から、そして日本人が遊びに行ったり、仕事で滞在して現地の女性を相手に子どもを作って放りっぱなしにしてきた東南アジアから日系の人たちが働きに来るようになった。現地では日系であるかどうかを日本政府に確認を求める代理店までできた。そういう連中の中には本当に日系だと判明しても、証明できなかったと本人には通知し、その権利を高く他の人間に売り飛ばす奴まで出現して問題化した。つまり、日系人が利権になった。

 ところがバブルがはじけたら、そういう人たちが邪魔になった。で、何をしたのかといったら、南米系の日系人たちに帰国費用を出すから帰れ、もう来るなとした。いわゆる労働市場需要のバッファーとして使い倒したわけだ。日系人だって故郷に一財産持ち帰れたんだから良かったじゃないか、ということになるのだけれど、問題は一緒にいったり来たりした子どもたちだ。これは本当にいつの時代でも問題になる。日系アメリカ人社会でも、帰米日系人が戦争に際して様々に振り回されてきた。

 その一方、外国人研修生制度が5省の管轄として外郭団体をつくって、責任の所在を曖昧にして発足した。最初は従事して良い業種を制限していたけれど、派遣社員の業種制限と同じように、竹中平蔵小泉純一郎コンビがどんどん形骸化していて、ほぼ全面的にその制限を解除して、人材派遣業というピンハネ業種を産み出した。日本固有の制度が外国人研修制度と人材派遣業だ。この二つで日本の産業のかなりな部分が低賃金で廻るような仕組みになっている。
 かくして、外国からの労働者が羨む環境ではなくなりつつある。研修制度が短期間の本来的な「研修」を装っている頃はまだ被害が少ない、とはいっても労働搾取は日常茶飯事だった。今やこの制度は名ばかりの「研修」「実習」になっていて、とことん低賃金半奴隷労働制度になっている。
 日本人労働者にとっても、今や4割強の労働者が「非正規労働者」となっていて、まさに経営者にとってはとても美味しい労働者雇用環境になっている。今や年収500万円の労働者は恵まれた方だ。こうなると当然国内市場はどんどん縮小していく。すると物価は下がっていく。

 今や日本は労働者が魅力を感じるエリアではなくて、安くて安全な観光地となりつつある。「日本が素晴らしい!」から来るんじゃなくて、安くて、エキゾチックな雰囲気を味わえるからやってくる地域になった。外国人の金持ちがセカンド・ハウスを持つ地域になったのだ。バブルの頃に日本人の成金がハワイに別荘を買ったことを想い出す。私の周りにも、数人でハワイに別荘を持っていた連中が現実にいた。


 来日する外国人がうなぎ登りに増えていることを喜んでいる人たちもいるけれど、それがなにを意味するのか考えても良いんじゃないか。つまり、日本は東南アジア各国と同じ状況になったということだ。しばらくブラブラしても大丈夫な程度に安くなった。それでいて、腹を壊すわけでもないし、犯罪に巻き込まれるわけでもない。

 うちの近所の格安弁当屋は24時間営業だし、ドン・キホーテはもう一軒できるという話だし、バックパッカースはニョキニョキ開業している。