ほぼ足りてまだ欲 その先

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座礁

 モーリシャス共和国モーリシャス島の南東の環礁に座礁して燃料油約1,000トンが流れだし、環礁のあちこちに漂着。界隈の海岸線に黒い、しかも臭う油が覆い尽くしている。マングローブの中に入り込んだ油はそう簡単にはなくならない。回収しようとするのであれば、マングローブを刈り取るしか方法がないだろうが、それは途方もない作業であるだけでなくて、海岸線の環境を破壊し尽くすことになる。
 幸いだったのは、この船がオイルタンカーではなくて、巨大なばら積み船だったことで、しかも荷物を積んでいない空船だったことだろうか。WAKASHIOは中国の連雲港を出て、空船でブラジルのサンタカタリナ州の南東部にあるトゥバランという港に向かって航海していた。この港はブラジルの外貨獲得の主要製品である鉄鉱石の積み出し港である。ブラジル・ミナスジェライス州には大規模な鉄鉱石鉱山があって、かつてはリオドセと呼ばれていた、今のCompanhia Vale do Rio Doce S.A.が世界三大鉄鉱石開発企業として知られている。
 どうももれ伝わってくるところによると、船は空船でマラッカ海峡をかわし、次に喜望峰をかわしてブラジルに向かう途上にあった。
 WAKASHIOの船主は長鋪(ながしき)汽船(岡山県笠岡市)であるが、登録上の所有会社はパナマのOKIYO MARITIME COPR.という社名になっている。もちろんこれはペーパーカンパニーで、これはなにもこの船に特別なケースではなくて、外航貨物船の多くが、パナマリベリア、南米の船舶登録税の安いところにペーパー会社を登録して、そこの所有にする。だからパナマ船籍だからといってもパナマはなにもしない。この船を用船しているのは株式会社商船三井(かつての大阪商船三井船舶)である。本船は2007年に三重県津市にあるジャパン マリンユナイテッド株式会社津工場(かつてのユニバーサル造船、そのまたかつては日本鋼管)で建造された。三井系の船舶会社が用船する船をなんで三井造船で建造しなかったのかというと、それは長鋪汽船の意向でも何でもなくて、就航後豪州と日本の間で鉄鉱石を運ぶという契約がなり立っていたからである。これを荷主補償というのだけれど、日本鋼管(現在のJFE)の鉄鋼部門が荷主となって運ぶための船として建造されたので津で建造されている。これまでは多くの航海が豪州のWA州ポート・ヘドランドやポート・ウォルコットから日本の福山や川崎(JFE-元の日本鋼管の製鉄所)へ鉄鉱石を運んでいたのがそれである。ブラジル-中国間の鉄鉱石輸送に携わるのはそれほど慣れていなかったのではないだろうか。日本の鉄鋼生産がかつてに比べたら驚くほど減少し、それが全て中国にシフトしていることの表れでもあるだろうし、JFEと株式会社商船三井とのあいだの保証期間が切れているのかも知れない。
 旧新日本製鐵(今の日本製鉄)が荷主保証している長鋪汽船所有で、株式会社商船三井が用船している船は三井造船千葉で建造されている。
 長鋪汽船の情報によれば、本船の乗組員は20名(インド人 3名、スリランカ人 1名、フィリピン人 16名)である。航海は気楽だったと思う。難しいことはない。次に難しいのは喜望峰をかわすことだ。伝えられるところでは、船はオートパイロットを設定して、乗組員の誕生会をやっていたという。挙げ句にWIFIを取れるようにたまたま近くにあったモーリシャスを目指したという。しかし、それでもブリッジには必ずワッチ当番の船員が見張っていなくてはならない。ワッチは何をしていたのか。こんな程度の低い事故は聞いたことがない。みんなでパーティーをやり、挙げ句に携帯を繋げたい、故郷に電話して誕生日を祝いたいとでも発想したんだろうか。誕生日だったのは一体誰なのか。かつてはこのような仕組みの船でも日本の船主であれば、キャプテンと機関長、チーフ・オフィサー、事務長くらいまでは日本人だった。もうそんな時代ではないということか。
 貨物船に装備するWIFIはほとんど普及していないのではないか。三菱重工が長崎で建造して大きな赤字を背負ってしまった大型客船工事ではWIFIの設置に大変手間取ったと漏れ聞く。最近竣工した客船には装備されているという宣伝を見たことがあるが、多くの客船には今も装備されていなくて、数年前にHALの船に乗った時は、港に接岸する度に、非番のインドネシア人乗り組みがどっとターミナルの廻りに座り込んでネットに繋げていたのが印象的だった。
 今では船体は船倉の前部分と、機関室や居室操舵室がある後ろ部分に折れてしまった。空船だったので、座礁してから前半分は浮力があり、後ろ半分は重いので着底したままで、波による力がかかって当然折れてしまった。前半分はすでに引きずり出されていて、タグボートが警戒に当たっている。現地からの報道だと、沖に引きずり出して沈めてしまうといわれている。しかし、グリーンピースをはじめとする自然保護団体はその措置に反対している。空船で、沖に沈めたら、人工の漁礁とはなるかもしれないが、ここの場合は既に環礁が拡がっているわけで、今更魚礁とする必要はないし、空船とはいえ、すでに13年間稼働してきた貨物船は、沈めたら、ビルジと呼ばれる船底に溜まった汚れた油や汚れ物がこぼれ出すことは確実だろう。これを船舶解体の盛んなバングラディシュまで曳航するといったら、かなりな難航海になるだろう。では、残された居住ブロックはどうするのか。これは非常に難しい。座礁地点で解体したらとんでもないことになる可能性がある。そうかといって、どこへ持っていくのか。
 まだまだ、この事件は続く。