ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

散歩

 永田町へ。ったって自民党本部に抗議にいったわけじゃない。勿論そうしたいけれど。いつものように最高裁判所の隣にある国立劇場の裏に位置する国立演芸場です。5月中席の国立演芸場落語協会の今春真打ちに昇進した5人の真打ち昇進披露で、10日間を5人ですから2日間ずつお客さんに披露の日がやってきてトリをとるわけです。今日は林家正雀の弟子、林家彦丸のトリの二日目ということになります。ですから演芸場の前には彦丸の幟が二本立っております。
 前座は十一代目金原亭馬生の四番目の弟子の小駒。なにしろ十代目金原亭馬生の孫でございますから、言葉の端々におじいちゃんの形見が見え隠れするのが不思議でございます。「お前はねぇ」なんていうほんのちょっとした物言いが「あれ!」と思わせます。DNAというのは得なものでございますよねぇ。彼もおじいちゃんやひいおじいちゃんに似て酒飲みになっちまうんですかねぇ。それにしても凄い家に生まれたものでございますねぇ。馬生さんの所の弟子は大体「元犬」をじっくり練習するようで、馬久を名乗っておりますかつての駒松も「元犬」で精進しておりました。
 二つ目は花緑の弟子の花ごめ(かごめ)。女性の噺家でございます。そういえばあとから出てきた木久蔵の話じゃないけれど、女性の噺家が増えているのは知っていますが、真打ちっていたっけ?と思ったら、今回彦丸と一緒に真打ちになった五人の中にこん平の弟子で林家ぼたんがいるじゃねぇか。
 実のことをいうと私は女性がやる落語は好きじゃない。そこのところ大変に保守的で融通が利かない。浪曲だって、講談だって、義太夫だって、ず〜っと昔から女性の演者がたくさんいるんだから噺家だって女性がやったって良いじゃないか、というものなんだけれど、どうしても女性が声を渋く低くして「お、はっつぁんじゃないか、ま、お上がりよ」とご隠居をやるのが違和感があって堪らないのでございます。じゃ、正雀さんが踊りで鍛えし物腰で女形をやるのは気持ち悪くねぇのかよ!といわれて・・それがねぇ、という理不尽。高校の落研では私がいる間女性を高座に上げることをしなかったのが非常に性差別的であるとして糾弾されるときはもうすぐそこでございますねぇ。
 で、演し物は「壺算」でございます。最初鼻じらむ思いで聞いておったんでございますが、さすが花緑の弟子でございますからなかなかの出来でございます。恐れ入りました。それにしても良く女子高から落語の世界に身を投じましてございますなぁ。
 次が木久蔵です。私、木久蔵を初めて聞きました、ッてぇか初めて見ました。なにしろ木久蔵目当てに寄席へいきませんものねぇ。彼は寄席に出てんですかね?木久蔵を襲名してからもう早くも9年経ったんだそうです。本当かどうか知りませんが、あとから出てきた落語協会理事、五明樓玉の輔によれば親に買って貰ったBMWで寄席に来るってぇますが本当かどうか。「看板のピン」。どうも誰かに似てんなぁと思ったら、そうだ、ひょっとすると彼は死んだ古今亭志ん五を彷彿とさせる唯一の噺家かもしれない!江戸っ子らしくないボタボタした物言いといい、あの路線でしょうかねぇ。ところで、なんでここに木久蔵がいるんだよ、と思ったら、そうそう、彼のオヤジ、木久扇は先代の正蔵、つまり彦六さんの弟子で、つまり彦丸と同様、彦六の孫弟子ということになるわけです。
 紙切りの二楽さん登場。皮切りに桃太郎を切ります。下座の方は♪もぉもたろさん、ももたろさん、おこしにつけぇたぁ・・♪となりますが、三味だけじゃなくて誰かが笛を吹いています。これが当然音程あわないわけで、おかしくておかしくて。祭、隅田川、宝船、なんというリクエストに応えながら、最後に、例の「動かないできるとこうなっちゃう」っていう音を止めの、照明落としの、じっとして紙切り、ってやつをやって見せます。これはどこの寄席でもやってんですかねぇ。わたし、今の正楽さんでここで見たことがあります。二楽さんは二代目の正楽さんの息子。
 玉の輔が枕で楽屋話をぶんぶん飛ばします。彼は自分が国際基督教大学附属高校から駒澤大だといってましたが、本当かよ!どうも眉唾、というのは演し物が「宗論」だったからです。そんなことをいったら、私の友人で青学高-國學院大出身のご住職がおられますぞ。私はこの「宗論」が嫌いです。権太楼さんの弟子の二つ目「ほたる」が勉強会でかけたことがありますが、その時もいったことがあります。キリスト教の信者にとってはとてもイヤな話です。親子間の宗教の違いを笑い話にした洒落、というにはキリスト教を小馬鹿にしてるんです。大体、若旦那がなんでフランキー堺のハワイから来た日系アメリカ人みたいな言葉を喋るんだよってんです。てなわけで、私は演し物がこれだとわかるとぶすっとします。玉の輔は小朝の二番弟子なんだそうです。今では女性のお弟子さんもいるそうですが、私の知り合いの女性で、それこそミッション系女子高を卒業してから小朝のところへ弟子にしてくれといって一万円貰って断られたってぇ奴を知っています。「金に困ったら小朝に弟子志願」ってのはどうです?
 そうそう、横にいた爺二人がこの話を「ありゃ新作なんでしょ?」っていってましたけれど、随分前からこれは東西を問わずやる人がいますよ。
(どうも一之輔の雰囲気が玉の輔に近い気がするんですけどねぇ。)
 仲入り前に誰が出てくるのかと思ったら、なんと鈴々舎馬風でございますよ。のっしのっしとやって参りました。先代の小さん噺です。彼と圓歌はこういう話しかしたことがありませんね。元会長です。昔は柳家かえるってぇましたね。
 仲入りで私弁当を使いました。いつもだったら三越の地下で辨松の並六弁当と相場が決まってございますが、本日、浮気を致しました。「両国茶屋」の焼き鳥・そぼろ弁当でございます。アサヒブロイラーって会社がやっているらしいのですが、760円位の弁当で、結構美味しうございました。半分残して夕飯に喰いました(笑)。
 真打ち披露の口上は左から司会の木久蔵、協会理事・玉の輔、彦丸、師匠の正雀、元会長・馬風でございます。おもしろおかしくめでたく口上です。
 ここから緞帳が忙しい。次が「すずかぜにゃんこ・金魚」のお二人です。東京の昔からある女性二人漫才の一典型です。20年ほど前に馬風門下に。金魚さんの頭につける飾りが売りです。百均のものばかりで造ったといわれている富士山に藤と新幹線。季節ものでございます。全部で900円だっていってた。最後、ゴリラになっちゃってて、客席からバナナと焼酎が差し入れ。あの人たちはご贔屓かね。
 師匠の林家正雀が「鼓ヶ滝」。正雀さんの語り口は真似ができない。正雀さんの良さは昨日今日の落語ファンじゃわからない。私は正雀さんが前進座の「双蝶々」の皮切りで京都南座の大舞台で語るのを聴いたことがありますが、あのくらい演目でありながら、大舞台で光っていたのを忘れられません。松づくしを踊ってくれました。
 鏡味仙三郎社中のいつもの大神楽。目出度いときはこういうもの。そうそう、今年の正月、日本橋丸善の前を歩いていたら社中が獅子舞で門付けをしているところに遭遇。よろしうございますなぁ、日本の伝統でございますから。
 そしてトリはもちろん本日のお目当て、林家彦丸師匠です。演し物は「紺屋高尾」。多分相当に緊張したことでしょうねぇ。
 私は実は彼のちゃんとした噺を聞くのは初めてなんです。毎年、国立演芸場2月の「鹿芝居」で、台詞少ないながら、文七元結の娘役なんぞをそつなくこなす姿を見ていて、あぁ、この子はさぞかし良い噺家になるんだろうなぁと思ったんです。だから、この真打ち披露は聞きたいと思っていました。正雀さんに弟子入りしてから15年。まだ33歳ですからねぇ。うちの子と同じ歳じゃねぇか。まだまだこれからです。
 久しぶりに青く晴れ渡った東京でございます。三宅坂から銀座を目指します。お堀場方をトロトロとくだっていきますと、いや、その植物がまぁ、いろいろ眼について、キョロキョロしてしまいます。そういえばお堀端の桜ももう随分長いことお目にかかっておりませんねぇ。生まれて初めて「ユリの木」の花を見ました。確かこれが学校のマークになっているはずなんですが、似ても似つかないですよねぇ。
 ビックカメラの三階に上がってwatermanのインクをひと瓶。610円。無印に入って評判だという爪切り大を一つ。交通会館下の三省堂に入ってイエローストーンが出ているという日経BPの「National Geography日本語版5月号」を入手。
 京橋駅まで歩いてくると千代田線がどうのこうのといっている。うちに帰ってくるまで東上線が脱線したってことを知らないまま。浮き世離れしちゃってんですよ。
9,003歩