谷中の裏道には時々、この界隈に滞在中だと思われる外国人観光客がそぞろ歩いているところに遭遇するけれど、その殆どは白人で、アジア系の観光客に遭遇することはなかなか稀だ。何か、そういうガイドブックが存在するのかもしれない。
旅行のガイドブックといえばかつては英語系では圧倒的にLONELY PLANETだった。これは地球の歩き方をはるかに超える草の根ガイドブックで、2008年にアイスランドへ行ったときはガイドブックといえばこれしか入手できなかった。ロンドンのヒースロー空港でアイスランド・エアの搭乗時間を待っている間に、ゲート前にいた外国人が同じこのガイドブックを何人か読んでいるのを見た。多分英語でもあれくらいしかなかったのかもしれない。あれから16年経った今では日本語のアイスランド関連ガイドブックは数えられないほど出版されている。中にはCD付きのアイスランド語の「会話・文法」なんてのまで出ているのには驚いちゃう。
一方日本の旅行ガイドブックの雄、「歩き方」は今ではGakkenから出版されているらしいけれど、中国語でも繁体字・簡体字双方で出ているというのを聞いたことがある。台湾の人が香港で出ている「歩き方」は便利なんだといっていたことがある。たぶん中国、韓国、インドネシア、その他多くの国でそれぞれに「日本」の旅行ガイドブックは出ていて、中に書かれていることはそれぞれ違うんだろう。
そうでないと、牛カツやに並んでいるのはアジア系の人たちばかりだったり、谷中の裏道を歩く人達が白人ばかりの理屈がつかない。
その谷中の裏道で、珍しくスーツケースをガラガラと引きずっている白人のおばさんを見た。明らかにこれから宿泊施設へ向かっているという風情である。路地の途中で立ち止まってスマホを見ながらぐるぐるあっちじゃない、こっちかなと方向を見定めようとしている。あんまりグルグルしているから助け舟を出そうとすると、「この辺に坂があるはず」とおっしゃる。「ハイ、突き当りを右に曲がって、次の角を左に曲がると坂がありますよ」というと、「やっぱりそうなのね」という風情で急いでガラガラといってしまう。よほど急いでいると見えるけれど、何を急いでいるんだろうか。
私が途中でいよいよ綺麗に染まった紅葉にレンズを向けたりしてウロウロしている間にも、そのおばさんはガラガラと坂道を下り、私が坂の下に降りてきた頃には、もうすでにどこかへいってしまって、どっちへいったのかわからなくなった。ひょっとすると今朝まで泊まっていた宿舎になにか忘れ物をしてきて、慌ててそれを取りに行ったのかもしれないし、あるいは永年別れていた兄弟と会えるチャンスが迫ってきていたのかもしれない。それじゃまるでテレビ・ドラマだけど。
パンを買って帰ってきた。そろそろ医者に行ってインフルエンザの予防注射をしたほうが良いかもしれないなぁ。