ほぼ足りてまだ欲 その先

「ほぼ足りてまだ欲」がはてなダイヤリーの廃止にともないこちらに移りました。

作文

 たった一年間だけ在籍した学校で吉野輝雄先生の授業がとっても面白くて「水」について随分考えました。その当時既に先生はこれからは水を巡る国際紛争の場になるだろうと仰っておいででした。そして、水というものは非常に巧くできているものなのだということを教えてくださいました。
 先生は6年前に定年でその大学を辞されたそうですが、まだHPが残っていて、そこに当時私が書いた作文(エッセーというほどのものではありませぬ)が残されていました。

しょっぱいコーヒー ID#: 031090 林 敬一
高校生活を楽しんでいる君へ
 今の時代の高校生活って、楽しいのだろうか、それともつまんないのだろうか。そんな真剣な話をする前に今日は、ちょっと現実離れした話をしよう。
 君は、以前に僕がアフリカの砂漠に半年いたことを覚えているだろうか。あれはもう20年近く前の話だ。だから君が生まれる前。原油の井戸からパイプラインを繋げて、原油を集め、それをもっと太いパイプで海まで運ぶ。その施設の建設工事だ。実際には現地に入ってから、1年半掛かる工事だった。
 リビア第二の都市、ベンガジから車で340キロほど入ったサハラ砂漠の真ん中に、僕たちの工事キャンプが設営された。最も近いオアシスまでは120キロある。勿論砂漠の中には信号はないから、車で走り始めたら、よほどのことがない限り停まる必要がない。だから、空気を抜いて砂の上を走りやすくした小型ジープでも時速60キロは出るから、確実に2時間でそのオアシスには着く。10キロほど手前からそのオアシスの廻りにある家から立ち上る煙が見える。そのオアシスには、まるで絵に描いたように椰子の木が生えている。緑を見るのが嬉しくなる。そんなキャンプでは水をどうしていたと思う?やっぱり、井戸から汲み上げるんだ。そんな砂漠に井戸を掘って水が出るのかって?もちろんだよ。
 但し、日本で掘るように、ちょっと掘って簡単に水脈にはぶつからない。かなり深く掘る必要はある。しかも、でてきた水は塩分を含み、なおかつ石灰分を大量に含んでいる。とにかく得られる水はそれだけ。何がなんでもこの水を飲まなくてはならない。出かける前からそこの水は塩っぽい、と聞かされてちょっと不安だった。現地に初めて入って、その水をひとたび口にした時、しょっぱいなぁとは思ったが、思ったほどではなかった。しかし、そのまま呑むのには、何となく抵抗がある。一応、まずやかんに入れて、沸かすことになる。そのお湯でインスタントコーヒーを入れる・・・・飲めるじゃないかぁっ! なぁんだ、案ずるより産むが易だ。エッ!今はお産の話なんてしていないって?・・ま、そうだな・・(おまえは一体何人だっ!日本人なら、これくらい理解しろっ!)。
 このやかんが何日か経つと驚くことになる。
コーヒーを持ちながら、一心地着いて話をしている。ちょっと冷めてくる。そのとたんにそれはもうコーヒーではなくなってしまう。なんとも表現不能の味である。
冷めたしょっぱいコーヒーを飲んでみたいと思うかね?
えっ!?なんだ、大丈夫だってのか。君は立派に砂漠に暮らせそうじゃないか。
 元々石油を産出すると言うことは、その地域が太古の昔、海底であったことを示している。その証拠に、砂漠の砂の上には、驚くべきことに貝殻が散乱しているのだ。それは別に、誰か日本人が、毎朝シジミのみそ汁を作っていたからじゃないのだよ。これに気づくと、本当にビックリする。だから私達はその砂漠のど真ん中で、太古の海水を汲み上げてコーヒーにして呑んでいることになる。さすがにいつまでもこれではいやになる。その上、数日経ったやかんは、その口から覗き込むと、びっしり石灰が凝固している。それだけ石灰分を含み、体の中に入ってくると言うことだ。
 結局日本から本格的な浄水器を持ち込むことになる。しかし、いくらなんでもシャワーは原水を使うことになる。どうにもならないほどの硬水である。頭を洗うと、ぺっちゃっとしてしまう。しかし、欧州のシャンプーはすごい!立派に泡だってくれる。硬水にでも大丈夫、なのだろうか。
ところで、砂漠の湿度は一体どれほどだと思う?
 もうカラカラ、と言いたいところだ。ところが、冬の砂漠の朝は気温が下がる。10度を切る。信じられないだろうが。寒いのだ。すると朝6時の夜明けには、湿度は90%近くを示す。雨が降ることもある。しかし、朝日が昇りだし、気温がぐんぐん上がり出すと、湿度は一挙に下がっていく。飽和水蒸気量が一気にド〜ンと上がるから、逆に湿度は下がっていく。汗はかかない、と言うよりも、多分かいているのだろうけど、汗腺から出たら直ぐに蒸発してしまうんだろうと思う。水分補給を忘れたら、大変に危険だ。
 小型ジープには、常に、水を入れたポット、予備のガソリンタンク、スコップ、毛布、ビスケットを持っている。目標物のない砂漠は、慣れるとそうでもないけれど、最初のうちは直ぐに方向を見失う。太陽がいつでも出ているのだから、大丈夫なような気がするのに、最初はみんな、自信がない。道に迷ったら、走り回らずに、一晩停滞する覚悟をする。翌朝には必ず捜索隊が出て、見つけてくれる。そのために必要なものは常に乗っけている。スコップ、毛布は砂に埋まり込んだときに、何よりも役に立つ。
 東京に普通に暮らしていると、別に水なんてなんの感動もない。下手をすると、「まずい水だぁ〜!」とえらそうに叫んでしまう。しかも、蛇口を開ければ、なんの問題もなく水は、(しかもしょっぱくない、石灰分を含んでいない、透明な水は)止めどもなく流れ出てくる。それでいて大した値段じゃない。
でも言うんだろ? まずい水だぁ、カルキくせぇなぁ、こんなだっせぇ水は飲めねえだろうぅ、やっぱ、エビアンだよなぁ・・って。
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『東京都水道局のHPから』
関東地方の全域に広がっている水源の水をチェックするため、川や湖(貯水池)の約50地点で水質の検査を行っています。また、浄水場では、処理過程ごとに水質を厳しくチェックし、常に安全な水を送り出しています。浄水場から出たあとも、都内の約120か所で、水の安全性を確かめる検査を毎日行っています。平成8年度からは、自動水質計器(右下の写真)による常時監視も行っています。さらに、定期的に、法令で定められた水質基準など85項目の水質について精密な検査をしています。
かび臭のないおいしい水をお届けするため、水源でかび臭が発生すると、浄水場では粉末活性炭を注入して対応しています。さらに金町浄水場では、より効果的にかび臭を取り除くため、平成4年夏からオゾンと生物活性炭を利用した高度浄水処理を行っています。金町浄水場の高度浄水処理は、かび臭の原因物質をオゾンで分解し、さらに生物活性炭で吸着、分解して完全に取り除きます。 平成10年度には、三郷浄水場でも高度浄水処理施設が完成する予定です。
東京の水道の概要(平成9年度末)
給水人口 10,941,469人、配水管延長22,329キロメートル、給水件数5,506,116件
浄水場の施設能力6,959,500立方メートル/日
一日最大配水量※5,412,800立方メートル、一日平均配水量※4,626,900立方メートル
(区部及び多摩地区24市町)※水量については、末統合地区への分水量を含む。
法令により蛇口での遊離残留塩素濃度を一定量(0.1mg/リットル)以上保持する必要があることが定められている
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僕は別に東京都水道局の人間じゃないのだから、宣伝する気はないけれど、こうして考えてみると、この巨大都市の水道システムを毎日毎日、休みなしに動かす、と言うことは並大抵なことじゃないと、ほとほと思う。 この地球上に存在する水という、液体の中でも人間が利用するのにぴったりな水を、直ぐそこに出してくれると言うのは本当に驚くべきことだ。キャンプに行ったときに、水が直ぐ横にはないというサイトはいくらでもあるけれど(むしろその方が自然な状況だ)、なぜか家に帰ってくるとその便利さに気がつかない。しかも、いつでもそこからは処理済みの水でてくる。こんなに便利で素晴らしいことはない。ところが、その便利さに気づかないだけじゃない。
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 「僕たちは自分が飲む水を作るために自分が汚した水を浄化しているんだ。人間って、あんまり賢くないなぁ。だったら、汚さなければ良いんだよな?そうすればなんの問題もなく、直ぐに簡単に、安く飲む水が作れる。それなのに、なんの意味もなく、汚して平気だ。」
「おい、そこの会社の責任者! その工場の排水をそのまま川に、なんで垂れ流すことができるんだ!?それで影響を受けるのは、おまえのこども達なんだぞ!?
会社は廃水処理設備をつくらなけりゃ、お金が掛からなくて儲かる。でも、その影響を受ける一般市民の中には、おまえの家族も、そしておまえも入っているんだよ。」
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 これから先は、君たちの時代になってくるわけだ。こんな状況になってしまった地球を君たちにそのまま渡すのは、本当に申し訳ないと思う。しかし、今の技術ではここまでアッという間に汚れてしまった地球を元に戻すことができない。本当に申し訳ない。どうか、元に戻す技術を開発して欲しいと言うことと同時に、みんなで自覚を持って暮らしていこう。イヤァ・・・本当に申し訳ない。

 何とも稚拙な作文で恐れ入るけれど、考えてみたら、まんま原発のことに当てはまる。